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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 暖野は思い出す。かつてのイリアンの言葉を。「でも、学院長先生が言ってた。分からないことがあるから、人間でいられるって」
「そうかもな。確かに、知れば知るほど分からなくなる」
「そうだよね」
「それが、学ぶということなのだな」
「ねえ」
 暖野はフーマの目を真っ直ぐに見つめて言った。「あのね……」
 そこまで言ってから、目を逸らす。
「どうした?」
「うん……」
「言いたいことがあるのなら、言え」
「なんだか、上手く言えない。言いたいことは、いっぱいあるのに」
 暖野は自嘲気味に笑った。
「何でもいいから、言ってみろ」
「それが一番困る」
「そうか……」
 フーマが遠い目をする。「俺がお前に言ってやれることは、そう多くはない。だが、言えることは言っておこうと思う」
「何? 話して?」
「前にも言ったかも知れないが……」
「いいよ」
「俺達人間は四次元に生きているということだが」
「どうなのかな。聞いたような気もするけど、そうでもないような気もする」
「存在は、その存在している次元数マイナス一次元の世界しか感知し得ない。人間は四次元に生きているが、三次元の世界しか見たり感じたりすることが出来ない」
「うん。そうね」
「もし人間が三次元の存在なら、二次元の世界しか理解出来ないはずだ。初期の生命体のようにな。――そして二次元の存在は一次元しか感知できない。さらに――」
「さらに?」
「一次元の存在は、そもそも存在しない」
「え……? だって、一次元の存在はあるんでしょ?」
「一次元の存在は次元そのものを感知しない。それは存在していないということになる」
「存在しているのに存在していないって……」
「宇宙の誕生だ。無からは何も生まれない。宇宙ははじめ一次元として存在し、次元の爆発によって生まれた。一次元であったものが一瞬にして三次元の世界になった」
「でも、私たちがいるのは四次元なのよね?」
「そうだ。四つ目の次元は、人間が生み出した」
「えーと、えーと……」
 暖野は頭の中を整理した。
 存在しない一次元の宇宙から三次元になって、それから――
「人間は思考を司る。そして、様々なものを測る。その中に時間もあった。人間は時間を規定することによって、自らを時間的存在として固定した。その時、時間は生命体の外側にあるものとしての次元を与えられた。そういうことだ」
「難しすぎて、よく分からない」
「だろうな。聞くだけ聞いておけばいいだろう」
「うん」
「だがな、人間は四次元にだけ生きているわけではない。人間は複数次元を生きている。だから世界は深く、俺達には見える。ただ四次元だけなら、これほどの深みはなかっただろう」
「それが、異空間ということ?」
「そうだ。四次元世界は複数ある。ということは、それらの上位次元も存在するということになる」
「ちょっと、飛躍しないでよ」
「ああ、そうだな」
 フーマが少し、言葉を切った。「複数の四次元は、異空間でもあり並行宇宙でもある。ひとつの現実を選択した際、選択されなかった現実が並行宇宙として分岐するという話は聞いたことがあるだろう」
 暖野は頷いた。そのままの表現ではなかったかも知れないが、似たようなことを聞いた覚えはある。
 フーマが暖野の反応を見て、続ける。「実際のところ、宇宙は分離と統合を繰り返していて、一旦分岐した並行宇宙も可能的選択によって再統合されることもあり得る。宇宙は複雑に絡み合っていて、その方向も一様ではない」
「じゃあ、何かで失敗とかしても取り戻せることもあるってこと?」
「可能性としてはな」
「なんか、期待薄って感じ」
「そうだな。一切の選択を誤らないというのは不可能だからな」
「それに、間違ってるかどうかも分からないんだし」
「ああ。そういう生き方をすること自体、不可能だ」
「不可能尽くしで嫌になる」
「そうか?」
 フーマが訊く。
「だってそうじゃない? 私達は自分の望む未来を手に入れられないってことになるじゃない」
「そういう側面は、否定できない。だが、それはあくまでも個人レベルのことだ」
「他にどんなレベルがあるの?」
「宇宙レベルだ」
「さっき言ってた、上位の次元のこと?」
「そうだ。個人はひとつの宇宙の顕現だが、その個人が存在するためには世界が必要となる。宇宙或いは次元は単一では存在出来ないが故に互いに重ね合わせられている。上位次元でさえ人間という存在なしには存続し得ない。そして――」
「そして?」
「その上位次元――全てのかどうかは分からないが、ある上位次元の存続の鍵となる宇宙は確かにあると、俺は思う」
 暖野は次の言葉を待った。だが、フーマは黙ったまま暖野を見つめるばかりだった。その瞳が何かを訴えてくる。
 ちょっと、待ってよ――
 今、フーマは鍵と言わなかったか。また、鍵だ。
 まさか――
 違うと言って。お願いだから――
 暖野は哀願するように、フーマを見る。
「ねえ……」
 お願い、違うと言って――
「こっちへ来い」
 フーマが優しく言う。
 暖野は、そっと彼に身を預けた。
「受け容れろ。そこから始めるんだ」