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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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11. 昂り


 リーウの自棄食いが終わった時、一人の男性が三人のいる所までやって来た。
「ノンノ・タカナシさんですか?」
 男性が言う。「私はここの寮監ですが」
「はあ」
「急ぎではないのですが、学務部に来るようにとの言伝(ことづて)を預かっています」
「学務部、ですか?」
「詳しいことは分かりませんが。あと、フーマ・カクラ君。君もですよ」
「私もですか?」
 フーマが訊く。
「そうです」
「分かりました。すぐに向かうと伝えてください」
 フーマの答えを聞いて、男子寮寮監は去って行った。
「何だろう?」
 不安になって、暖野は訊く。
「さあな。行ってみるしかないだろう」
「やっぱり、私はお邪魔?」
 リーウが言う。
「一緒に来たらいいじゃない」
 暖野は言った。「私は、来てくれた方がいい」
「そ……そう?」
「うん。別に怒られるわけでもなさそうだし」
「どうして分かるのよ」
「だって――」
 そこまで言って、暖野はそれには何の根拠もないことに気づく。
「俺も、そう難しい案件ではないと思う」
 フーマが助け舟を出す。「来ても問題はないだろう」
「そうなのかな?」
「うん。急ぎだったら、放送するだろうし」
 暖野は言う。
「そうよね……でも」
「もし何か怒られるようなことだったとしても、リーウがいてくれると心強いから」
「ん、まあ――そこまで言われたら、行ってあげないこともない」
 三人は本校舎の学務部へと向かった。

「ああ、申し訳ない。もっと、ゆっくりしてくれてもよかったんだけど」
 学務部へ入ると、担当の男性職員が笑顔で迎えてくれた。
「あの、私たちに用って……」
「明日のことなんだけどね。君たちも知っているとは思うけど」
「舞踏会ですか?」
「そう。その衣装のことで」
「衣装?」
 暖野が怪訝な表情で問う。
「何と言っても、タカナシさんは主賓だから」
「主賓って……」
「採寸だけなので、そう緊張しなくてもいいですよ」
「でも……」
「採寸は女性職員がするので、心配要りません」
 あくまでも笑顔の職員。
「はあ……」
「では、奥の方へ」
 指示された方に、暖野は向かう。
 職員はそれから、フーマに向き直った。「カクラさんは、あちらへ」
 その部屋には、一人の女性がいた。
 気負う必要もなかった。中学や高校の制服を買った時と同じような感じ。だが、測られる部位はそのときよりも多かった。
「ちょっと、これを着てもらえますか?」
 女性が服掛けから選んで暖野の方に示した。
 これを着ろと――?
 出された服は、映画やアニメのお姫様のようなドレスだった。
「後ろを向いて――」
 言われるままに、暖野はそうする。
 胸の位置を押し上げられ、コルセットを締め上げられる。浴衣を着る時よりもきつい。
「痛い……」
「少しの我慢ですよ」
 半ば無理矢理にドレスを被せられ、あちこち何かされる。
 それは正に何かされているとしか言いようがなかった。肋骨の下部の痛みに耐えながら、されるがままになる。
「はい、いいですよ」
 女性が暖野の体を回転させ、鏡の方に向ける。
「え……?」
 暖野は目を瞠った。「これ、私?」
「そうですよ。今は採寸だけ。きちんと着付けをすれば、もっと綺麗になれます」
「あの……。衣装とか……」
「明日にはご用意できます。ご心配なさらずに」
「はあ……」
「じゃあ、また失礼しますね」
 そう言って、女性は後ろに回り、ドレスを脱がせにかかろうとする。
「すみません。ちょっと、いいですか?」
「何でしょう?」
「友だちに見せたいんですけど」
「それもそうですね。でも、それは明日のお楽しみに取っておいた方がいいですよ」
 暖野は不承不承元の制服に着替え、部屋から出た。
「え? ノンノ、着替えたんじゃないの?」
 制服姿の暖野を見て、リーウが言う。
「採寸だけだって」
「何それ。で、どうだった?」
「うん……」
 暖野ははにかむ。「ちょっと、びっくりした」
「見たかったなあ。どんなだったんだろう?」
「なんかね、明日のお楽しみだとか」
「意地悪だね」
「まあ、そうね」
「明日かあ」
 リーウが宙に視線を投げる。。
「明日ね」
「早く見たいけど……」
 その先、彼女が何を言おうとしたのかは、暖野にも分かった。楽しみにしている明日は、最後の日なのだと。
「それで、フーマは?」
 話を変えようと、暖野は言う。
「まだ出て来ないのよ。女より着替えに手間取るって、どういうことなんだろ?」
 それには返事せず、暖野は先ほどフーマが入って行ったドアに向かった。
 ノックする。
 返事はなかった。
 試しにノブを回してみると、鍵は掛かっていない。唾をのみ込み、ゆっくりとドアを開ける。
 だが、その部屋には誰もいなかった。
 反対側にもう一つの扉がある。その前に立った時、中から話し声が聞こえた。
 フーマと、もう一人――
 学院長、イリアンの声だ。
「――では、構わないのですね」
 フーマが話している。
「ああ。それくらいは認める。このままでは、彼女があまりにも――」
 暖野は、そっと扉から離れた。
 割って入っても、どうせ話してはくれまい。
「どうしたの? 何かあったの?」
 元の部屋に戻った暖野に、リーウが訊く。
「ううん。なんだか、こじれてるみたい」
 暖野は無理に笑って見せた。
「こじれてるって、何が?」
「色々とよ」
「ふーん」
 リーウが、もの言いたげな顔をする。
「まだ時間かかりそうだから、行こう」
 ドアを開ける。廊下へと踏み出そうとした時、暖野は軽い眩暈を感じた。勢いで全開ではなかったドアに寄り掛かり、横ざまに倒れそうになる。
「ノンノ!」
 リーウが慌ててそれを支え、転倒するまでには至らなかった。
「大丈夫。ちょっと、ふらついただけだから」
 物音に気づいて、フーマが部屋から出てきた。
「どうした? 何があった!?」
「ううん、何でもない。ぶつかっただけ」
「ノンノ、顔色が悪いよ」
 リーウが心配して言う。
「平気」
「平気ではないだろう。医務室へ行った方がいい」
 無理して笑顔を見せる暖野を、フーマが促す。
「お話は、もういいの?」
 支えてもらいながら、暖野はフーマに言った。
「やはり、聞いていたんだな」
「聞こえただけ。それも、ほんの少し」
「そうか」
「ねえ、話してくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。だが、今はまだ言えない」
「そう……」
 無理に訊く気力が、今はなかった。
 三人は黙ったまま、医務室への廊下を歩いた。

 以前と同じく医務室でマナの補給を受けながら、明日の終わりまで身体が保つのだろうかと、暖野は心配になった。フーマはずっと、暖野の手を握っていてくれる。その温かさは、彼もマナを送ってくれているのを感じさせ、暖野の心を落ち着かせた。
「やっぱり、私はお邪魔よね」
「お前は、請われてここにいるのではないのか」
 リーウの言葉に、フーマが不機嫌そうに言う。
「でもさ、ただ見せつけられてるのって、なんか馬鹿々々しくなるって言うか」
「リーウ」
 暖野は空いている方の手を伸ばす。
「うん……」
 しぶしぶ、リーウがその手を握る。
「リーウも、近くにいてくれたら嬉しい」