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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 途中で小休止を挟み、イリアンは壇上で一人語り続けた。
 講義が終わり、一斉に大講堂を後にする生徒の群れに混じって、暖野達も建物の外に出た。
「あー、お腹すいた!」
 リーウが言う。
 それを聞いて、沈みがちだった暖野の気分が幾分和らいだ。
「もうお昼だもんね」
「うん。でも、この様子じゃ食堂はいっぱいね」
 生徒たちは皆、校舎の食堂の方へ向かっているように見える。
「寮の方に行く? どうせもう授業はないんだし」
 そこまで言って、リーウは何かを思いついたように言う。「あ。せっかくなんだしさ、男子寮の食堂に行ってみようよ」
「えー? そんなのって」
「いいじゃない。フーマもいるんだし」
 言われて、暖野はフーマの方を見て訊く。
「いいの?」
「何がだ?」
 いつものような憮然とした答え。
「こいつ、恥ずかしいとかないから平気だって」
 リーウが、フーマを小突く。
「あのね」
「あら、代わりに怒るんだ」
「いい加減にしてよ」
「でも、ノンノだって男子寮に興味くらいはあるでしょ?」
「ん……。それは、まぁ……」
「だったら、決まりね」
 強引に押し切られ、男子寮に向かう。
「リーウったら、本当にいつも無理矢理なんだから」
「いいじゃない。好機は活かすものよ」
「何の好機なんだか」
 男子寮の食堂は、まだそれほど混雑してはいなかった。夕食時の女子寮よりも少ない人数のような気がする。
「ね、ここのお薦めって何なの?」
 リーウが、フーマに訊く。
「ふむ」
「彼は、あんまり食べ物に詳しくないの」
 暖野が釈明する。
「そうなんだ。じゃあ――」
 リーウが食堂へ入って行こうとする。
「ちょっと、待ってよ」
「訊けないなら、見ればいいのよ」
 止めようとする暖野に、リーウは言った。
 確かにその通りだ。皆が何を食べているのか見るのが一番早い。だが、さすがに男子寮に女子がいきなり訪ねて来たとあっては、皆の注目を集めてしまう。
「ふうん」
 リーウが見渡して言う。「フーマ、みんなが食べてるのって何?」
「あれって……」
 暖野は鼻をひくつかせる。多くの生徒が手にしているもの、その見た目、構内に漂う匂い。
 カレー――?
「伝説のスパイス煮込みとか言う料理らしい」
 フーマが言うのを聞いて、暖野が噴き出す。
「ちょっと、どうしたのよ。ノンノ」
 リーウが訊く。
「だって、伝説とか言うんだもん」
「え? ノンノは知ってるの? あれ」
「知ってるも何も。あれは、カレーよ。たぶんね」
「カレー?」
「ふむ。あれがカレーというものだったのか。お前の世界では人気だったそうだが」
 フーマが感心したように言う。
「私、あれにする」
 暖野は言った。
「じゃあ、私もそうしようかな」
「俺は、やめておく。あれはどうも、鼻につく」
 フーマの時代では、あまり刺激の強そうなものは、何につけても無いのかもしれないと暖野は思った。
 それぞれのトレイを持ち、ここでもやはり屋外の目立たない場所に席を取る。
「これが、ノンノの世界の食べ物?」
 リーウがカレーのようなものをスプーンですくって匂いを嗅ぐ。
「そのままかどうかは――」
 説明するまでもなく、リーウが一口食べる。
「あ、これは好きかも」
 暖野も食べてみる。やっぱりカレーだ。味付けが微妙に違うようだが、紛れもなくカレーだった。でも……
「うわ。辛っ!」
 最初はそうでもなかったが、徐々に辛さが効いてくる。
 リーウの方は平気な顔をして食べているが、辛いものが苦手な暖野はそうはいかない。それでも、やはり美味しい。深みの中に辛さが仕込まれている感じがする。
「美味いのか?」
 フーマが訊いてくる。
「うん。食べてみる?」
 暖野は一匙すくって、フーマの方へ差し出す。
「いや、やめておこう」
「そんなこと言わないで。私には辛すぎるから、少し手伝ってよ」
「まあ、そういうことなら」
「おぅ!」
 一口食べたフーマが声を上げる。
「どう?」
 訊くまでもなく、フーマの顔が赤くなる。見る間に額に汗が噴き出す。「あ、ごめん。やっぱり強すぎたんだ」
 暖野は急いでハンカチを出し、彼の汗を拭う。そしてすぐさま食堂に駆けてゆき、ピッチャーごと冷水を持って戻った。
 とうに食べ終わったリーウが、この一連の出来事を興味深げに見ている。
「あんたたちって、人前でイチャつくのは全然平気なんだよねぇ」
 呆れたように、リーウが言う。
「べつに、イチャついてなんか――」
「いたでしょ? べつに構わないけどさ。二重にごちそうさまって感じ」
「でもね」
 暖野は言いながら、自分の皿をリーウの方に押しやる。やはり、全部食べるには辛すぎた。
「もう一回だけ、ごちそうさましてくれる?」
「分かったわよ。もう、こうなったら自棄(やけ)食いなんだから」
 リーウはスプーンを手に取った。