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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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「だって、私たちのせいで――」
「違うな」
「どう、違うのよ」
「他の奴らのことは知らない。だが、お前はそれには加担していない」
「でも、私もその時代の人間なのよ?」
「その時代の人間だからだ」
「意味、分かんない」
「分からなくていい」
「また、それね」
 そう、こんなふうに、いつもはぐらかされる。
「お前は今、お前の時代が与えた影響について申し訳なく思っているのだろう?」
 フーマが言う。
「そうよ。だって、私はその時代の人間だから」
「お前がここにいて、それを申し訳ないと思っているのなら、お前には責任はない」
「なんだか、本当に……」
「お前は、お前の時代では人類の代表でも何でもないはずだ。そしてお前はそのことに責任を感じている。ならば、お前には責任はない」
「うん……」
「お前ひとりでは、どうにもならないこともある。一人で抱え込むなと言ったはずだ」
「うん……」
「お前は、全てにおいて真面目過ぎる」
「そんなこと、ないわ」
 暖野は言う。
 自分は決して真面目ではない。適当で面倒くさがりで……
「お前は――」
「それ」
 暖野は指摘する。
「そうだな」
 フーマが言い直す。「暖野は、本当に美しい」
「あ……」
「おかしな意味ではない。暖野は美しい」
「……うん……ありがと……」
「初めてここへ来た時も、実習の時も、ワッツと闘っていた時も」
「あれは――」
「お前は、真っ直ぐに立ち向かう。目の前の現実に」
「だって……、仕方ないじゃない……」
「それだけじゃない」
「他にもあるの?」
「あの後、ワッツにも会いに行った。他の誰もがしないことを、お前はやった」
「だって、私のせいなんだし……」
「あれは、お前だけの責任ではない。あの場にいた全ての者の責任だ。俺も含めてな」
「でも、傷つけたのは、私よ」
「そうだな。だから、お前は責任を感じた」
「まあ、そうだけど……」
「暖野」
「うん」
「お前は、逃げないんだな」
 フーマが、暖野を見つめる。
「逃げる?」
「そうだ。お前は、いつも逃げない。事態に真剣に向き合い、挑み、そして傷つく」
「……」
「辛かったろう」
 憐れみを宿した眼。
 暖野はそれに耐えられなかった。
「どうして、そんなことが言えるのよ?」
「助けを求めても、いいんだぞ」
「そんなこと……」
 涙が出てくる。
 どうして――?
「耐えることだけが、美徳ではないはずだ」
「馬鹿」
 暖野は、その胸に頭を預ける。
「ああ、分かってる」
「馬鹿」
「そうだな」
「デートなのに」
「ああ」
「泣かして、どうすんのよ?」
 背に、腕が回される。
「泣け。俺がいる」
 泣けなんて言われて、泣けるわけないじゃない――
 思い切り泣きたい。でも、それは出来ない。なぜなら――
 そんなに、簡単に泣いて終われるようなことじゃないから。
 何よ、これ――
 泣いてもいいのに、泣けない。
 泣けと言われたら、なおさらに泣けない。
 なんだか悔しくて、泣きたいくらいに悔しいのに、泣けない――
 フーマの胸に顔を埋め、暖野は声にならない涸れた息を震わせる。
 惨めな呻き、涙の代わりの鼻水。
 馬鹿――
 馬鹿――
 フーマの服で、それを拭う。
 私をこんなにさせるのが、悪いんだから――
 そっと、頭を撫でられる。
 よしてよ、そんなことされたら――
 だが、暖野はそれ以上は泣かなかった。
 いや、正確には泣けなかった。
 そう、泣いてちゃ、いけないんだ――
 暖野は顔を上げる。
「私、泣かない」
「そうか」
「うん。それは、今じゃない」
「……そうだな」
 嫌でも泣かなければいけなくなる。たとえ泣きたくなくとも。残りの二日間、泣いてばかりはいられない。
 今は、まだ……
 そう。まだ――
「ねえ」
 暖野は努めて明るい声で言う。「ここって、映画館とかあるのかな?」
「さあ。俺に訊かれてもな」
「ま、そうよね」
 暖野は町行く人の一人に声をかけ、映画館か何か娯楽施設があるのか訊いてみることにした。
 遊園地のようなものはあるが、残念なことに休日しか営業していないとのことだった。映画館もこの時間は上映していないらしい。その代わり、この先の辻広場で旅芸人が何かやっているようだと教えてくれた。
 そこまで行ってみると、人形劇か何かがちょうど終わったところだった。
 集まっていた人たちが三々五々散ってゆく中、暖野とフーマの二人だけが取り残される。
「せっかく来たのに……」
 力なく立ち尽くす暖野の肩を、フーマが軽く叩く。
「すみません」
 フーマが、片づけをしている演者の女性に言う。「今日は、これで終わりですか?」
「今から休憩して、それからだね」
「どれくらい後でしょう」
「そうだねぇ――」
 ちょうどここから上部だけが見える時計塔を仰ぐ。「次の鐘が鳴る頃。小さな花火を三つ上げるから、それが合図だよ」
「ありがとうございます」
 フーマが頭を下げる。
 暖野も、それに倣った。
「よかった。フーマ、ありがとう」
「楽しみか?」
「うん。ちょっとね」
「俺も、興味がある。大道芸とかいうものに」
「なんだかフーマといると、何でも勉強にされてしまいそう」
「そうか? そんなつもりはないが」
「いいわ。まだ時間もあるし」
 靴も買わないと――
 暖野はそれもまた尋ねることにした。
 そう、分からないことは聞けばいい。