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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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3. メッセージ


 朝、暖野はノックの音で目を覚ました。
 この音で目覚めるのも、どれくらいぶりだろう。
 急なことだったので、目覚まし時計もない。また寝過ごしたのかと、暖野は思った。
 隣では、リーウが気持ちよさそうに寝息を立てている。
「はい……」
 暖野は腰に回された腕を解き、起き上がる。
 ドアを開けると、寮監の女性が立っていた。
「ノンノ・タカナシさん宛てに伝言を預かっています」
 女性はそう言って、一枚の紙片を手渡した。
「あ……ありがとうございます」
 眠い目をこすりながら、畳まれた紙を開く。
――十時、正門前、町へ行こう。フーマ・カクラ――
 それだけのメッセージだった。
「でも、十時って……」
 授業時間中だ。いくら外出自由だと言われても、公然のサボりは気が引ける。
「ねえ、リーウ」
 暖野は、リーウを揺さぶる。
 どれだけ呼んでも、リーウは起きなかった。
 二人が寝てから、まだ1時間ほどしか経っていない。暖野自身眠いのだから、そうそう簡単には起きないのも無理はないだろう。
 でも――
 改めて、伝言の内容を見る。
 ちょっと待って。これって――
「えー? えーっ? どうしよう? これって何? ねえ!」
 布団をめくり、枕を叩きつけてリーウを起こす。
「う……ん。もう……うるさいなぁ……」
「ちょっと、リーウ! これ!」
「もう、何なのよ? まだ起きる時間じゃ――あたっ!」
 その顔面に、暖野は紙片を叩きつける。
「もう! なんなの? 朝から!」
「私! あのね! 私!」
「あー」
 リーウが頭を掻きながら紙片を見る。「うん? 何?」
「ね、これって」
「デートでしょ?」
 面倒そうに、リーウが言う。
「やっぱり!? ああ、どうしよう……」
「あんたね、あんだけイチャついといて、今さらなに動揺してんのよ」
「あ……え……。でも、ふたりっきりよ? デートよ?」
 リーウが溜息をつく。
「落ち着きなよ」
「だって……」
「いっつも二人で何かやってるじゃないの。で――」
 リーウが、暖野を見る。
「な……何よ?」
「服」
「あ……」
 そう、暖野は私服を持っていない。今回ばかりはジャージで済ませるわけにもいかない。
「アンカのところに、行く?」
「でも……」
「どうせ、あんた達が付き合ってるのはバレてるんだし」
「うん、でも……」
「もうっ! はっきりしないわね。まさか、制服のまま行くつもり?」
「だって……」
「買うったって、まだショップ開いてないしなぁ」
 リーウが考える。
「制服でいいよ、もう」
 暖野は言う。
「あんたって、変なとこ大胆なくせに臆病なのね」
「……」
「いいよ、ノンノがそんなんなら」
 リーウは起き上がって、そのままドアに向かう。
「どこに、行くの?」
「顔洗ってくるに決まってるでしょ?」
 そう言って、リーウはドアを閉めた。
 数分後、リーウが3人の女生徒とともに戻って来た。
「暖野。服貸してくれるって!」
「だから、このままでいいって言ってるじゃない」
 暖野はすでに制服に着替えている。
「ばかね。せっかくのお誘いなのに、それはないでしょ? 彼氏に失礼よ」
「でも、フーマも通いだし、服持ってないはずだし」
「ごちゃごちゃ言わないの!」
「い……嫌! 放して!」
 リーウが無理矢理に制服を脱がせようとしたとき――
――嫌!
 室内が閃光に包まれる。
 窓ガラスが砕け散り、リーウと他の3人も吹き飛ばされた。
「いったぁ……」
 廊下の外まで飛ばされたリーウが起き上がる。
 暖野の部屋からは無臭の煙が漂い出ていて、室内は見えない。リーウは這って部屋に戻り、一緒にいたはずの女生徒と暖野を手探りで探す。
 煙が薄れるにつれ、室内の惨状が明らかになってきた。
 3人は壁際で気を失い、暖野は部屋の中央で蹲るようにして倒れていた。
「ノンノ!」
 リーウが、暖野を揺さぶる。
 その目はきつく閉じられたままで、起きる気配はない。
 そうしている間に、他の3人が意識を取り戻し始めた。
「大丈夫?」
 彼女たちに、リーウが声をかける。
「何なのよ、一体……」
「ごめん、なんかマズったみたい」
 最初に起き上がった女生徒に、リーウは言った。 
「何が起こったの?」
「わからないけど……」
 廊下に人が集まり始めている。
「通しなさい!」
 野次馬をかき分けて寮監が血相を変えて入ってきた。
「いったい、何事です!」
「すみません……」
「これは……」
 倒れたままの暖野を見て、寮監が息を呑む。「あなた達! 彼女に何をしたんです!?」
「わ……私は何も――」
 リーウが上ずった声で弁解しようとする。
 その背後で、残りの女生徒が部屋を出て行こうとするのを、寮監は厳しく制した。
「お待ちなさい!」
「彼女たちには責任はありません!」
 リーウが言う。
「ですが、これは」
「私が、やったんです……」
 リーウがうな垂れる。
「あなたが……?」
「はい……。彼女たちは、たまたま居合わせただけです……」
「そうなんですか?」
 その問いに、3人は激しく首を縦に振った。
「ごめん」
 リーウが3人に確認する。「怪我とか、ない?」
「うん、大丈夫。ちょっと……びっくりしただけ」
「う……」
 暖野が声を漏らす。
「ノンノ!」
 リーウが急いで傍に寄る。「大丈夫!?」
「ん……」
 やっとのことで、暖野は目を開けた。
「ノンノ?」
「え……? 何……?」
 リーウが涙しているのを見て、暖野は戸惑う。
「え? 何があったの?」
「暖野!」
 その時、フーマが駆け込んできた。
「ちょっと! ここは男子禁制ですよ!」
 寮監が厳しくたしなめる。
 フーマはそれには構わずに暖野に駆け寄った。
「暖野、大丈夫か!?」
「う……うん……」
「何があった?」
「よく、分からない……」
 暖野は虚ろな目をしたままで言った。
「ここは男子禁制――」
「あなたが何とか出来るなら、いますぐ追放すればいい」
 フーマが毅然とした視線を寮監に向ける。
「私は……。規則として――」
「規則で寮生が守れるのならな」
 そう言って、フーマは暖野に向き直る。「何かされたのか?」
 暖野は目を逸らす。
「私が……」
 リーウがおずおずと口を挟む。
「お前か!」
 その怒声で、リーウが身を縮めた。
「私、ノンノの着替えを手伝おうと思って……。無理矢理……」
「……そうなのか?」
 フーマが言う。
 暖野は頷いた。
「ごめん。ノンノが嫌がってたのに……」
「また、何か思い出したのか?」
「分からない……」
「無理に思い出さなくていい」
「ねえ、何をなの? 思い出したらいけないことなの?」
 フーマが、暖野を抱きしめる。
「思い出さなくていい。……むしろ、思い出すな」
「それじゃ、解決にならないよ……」
「分かっている。だが、それは俺の口から言うことではない」
「また、それ……」
「とにかく、今日の外出はやめよう」
「いや!」
 それまでとは打って変わって、暖野は強い口調で言った。
「こんな状態では無理だろう?」
「私、行きたい」
「……」
「一緒に……」
「分かった。お前が、そこまで言うなら」