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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 自分たちが見たものを報告した方が良いのではないか。しかし、それを見てくるように言ったのはイリアンだ。わざわざ赴く必要もないだろうと、暖野は考え直す。
「もうすぐ、授業も終わるわ」
 そう、あまり時間もない。
「ああ」
「ここで……」
 少し。
 少しだけ、勇気が欲しい暖野だった。
 分かっている。たぶん、もう誰もが知っていること。
 あと三日。
 憐憫の目で見られるのは嫌だった。
 だから、少しだけ、勇気が欲しかった。
「いいよね?」
 暖野は言って、フーマの唇をねだった。
「ああ、もちろんだ」
 鐘が鳴る。
「ありがとう」
 暖野は言った。「行こう。フーマ」

 教室に入ると、そこにいた誰もが二人に注目した。
 それまでは普通に普段通りの会話がなされていたはずの空間が、一瞬にして沈黙に包まれる。あれだけ覚悟していたにも関わらず、暖野は足が竦んでしまった。
 それを解いたのは、フーマの手だった。
 そっと、背中を押す手。
 優しく、そして力強い。
「気負わなくていい」
 小声で、フーマが言う。
 暖野は頷いて、教室内を自分の席へと進んだ。
 リーウでさえ、二人を見て動揺しているのが見て取れた。
「リーウ」
 暖野は声をかける。
「うん」
「もう、知ってるでしょ?」
「うん」
 リーウの瞳が潤んでいる。
「やめて」
 暖野は言った。「それは、リーウじゃない」
「分かってるけど……」
「お願いだから」
「うん……」
「ありがとね」
「うん」
「もう、知ってるのよね」
 その言葉にリーウが俯く。
「私、もうここにはいられない」
「うん……」
「それでも、これまで通りでいてくれる?」
 リーウが目を逸らす。
 視線を彷徨わせ、思いを巡らせているのが分かった。
「うん」
 しばらくして、リーウが無理な作り笑いを浮かべる。「当たり前じゃない」
 暖野には、リーウの気持ちが痛いほど分かった。
 かつて別れた親友。同期同然だったというその女生徒。
 ルーネア・ケイ。
 ルーネア・ケィ・コーセム・フエナ。
 リーウは、またも親しい人を失うことになる。
「ごめんね」
 暖野は言った。
「なんで、あんたが謝るのよ」
「だって、リーウは……」
「それも、今は言わないで」
「うん」
 何となく気まずい雰囲気が流れるところへ、授業開始の鐘が鳴った。
 だが、授業は自習だった。
「またか」
 リーウが言った。「この授業、半分くらい自習なんだよね」
「そう……なんだ」
 統合科学史。前に一度だけ受けたことがある。
 暖野はほとんど聞いてはいなかったが。
「どうする?」
 リーウが訊いてくる。
「そうね……」
 暖野は考える。「食堂、行く?」
「フーマは?」
「あとでいい」
「そうなの?」
「今は、リーウと話したい」
「うん」
 食堂へ向かう途中、暖野は言った。
「ねえ、私って、なんでここに来たのかな」
「それは、選ばれたからでしょ」
「うん。それは分かったよ。でも、選ばれたのに追放されるって……。理由は分かってるんだけど、自分でなんとかできないのが悔しいって言うか」
「そうよね」
 リーウが言う。「あんたほどの能力者が、無力宣告されたら、そりゃ落ち込むよ」
「何気に酷い言い方」
「ごめん」
「謝らなくていいけど。その通りなんだし」
 8時間目。
 この時間が終われば放課後。
「ねえ、ほんとに……」
 リーウが言う。
 食堂の外、オープンスペース。暖野の前には泡立つクリームソーダ、リーウは控えめにオレンジジュースにしたが、互いにあまり口をつけていない。
「あはは」
 暖野は笑って見せる。「今すぐじゃないし。まだ三日もあるし」
「そう……だよね」
「そんなに深刻にならないでよ」
「うん……」
 リーウが目を伏せる。
「もう! リーウがなにしょげてんのよ」
「分かってるよ。でも……」
「私もね……」
 暖野は言う。「寂しいよ。せっかくリーウと友達になれたのに、またあっちに戻るのが」
「……」
「ねえ、あの人のこと。ルーネアさん」
 暖野は真面目なトーンを落とした口調になる。
 リーウが、はっと顔を上げた。
「私ね、会ったことがあるの」
「うそ……」
「ほんとよ」
「どうして……?」
「元の世界で」
 暖野は遠い目をする。「廃墟になってしまったお城で」
「……」
「彼女は、私が来るのを待ってた」
「ノンノを……?」
 暖野は頷く。
「彼女の本当の名前は、ルーネア・ケィ・コーセム・フエナ」
 リーウがその名を繰り返す。
「そう、笛奈の最後の末裔にして城主だって言ってた」
「ルーニー……」
 リーウが言う。「ホントに、お姫様だったんだ」
「ルーネアさんは、私に何かを伝えるために、待ってたって言ってた」
「それが……」
「そうね。リーウが言ってたことだと思う」
「……」
「ごめんね」
 暖野は言う。「思い出させちゃって」
 リーウが首を振る。
「ううん。これで少しは分かった。ルーニーがやらなきゃいけないことが何だったのか」
 暖野は迷った。
 ルーネアが、すでにこの世にはいないかも知れないことを言うべきかどうかを。
「よかった……」
 リーウが、吐息とともに言う。「ルーニー、ちゃんと目的は果たせたんだ」
「リーウ……」
「ううん。ちょっと嬉しかっただけ」
 リーウは目尻に涙を浮かべた。
「もう。私の方が、しんみりしちゃうじゃない」
 暖野はわざとおどけてみせた。
「ごめん。だって、ノンノがルーニーのこと思い出させるから」
「ごめん」
「いいよ。教えてくれて、ありがとう」
「リーウは――」
「いいって」
 暖野が言いかけるのを、リーウは遮った。
「でも……」
「好きよ」
 リーウが呟く。
 暖野は黙って次の言葉を待つ。
 伏せていた目を、リーウが上げる。「ノンノもルーニーも」
「うん……」
「なんか、色々とうまくいかないね」
「そうね。ほんとにそう思う」
「フーマは、何て?」
「うん……」
「ちゃんと、言ってくれなかったの?」
「言ってくれたけど……」
「ノンノの期待してるようなことじゃなかったんだ」
「そうじゃなくて……」
「ま、難しいよね」
「うん」
 暖野は言いかける「私って……」
「何?」
「ううん、何でもない」
 暖野は湧き上がって来た思いを振り払って言った。
「鬱ってるときはね、甘いものが一番」
 リーウが立ち上がる。「なんか食べよう!」
「うん、ありがとう」
 空元気なのは分かる。それでもリーウの言葉に励まされる暖野だった。