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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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「はい。ですが、それは望んでそうなったわけではありません」
 フーマが答える。
「そう。君たちのことだ、それくらいのことは心得ているはずだと、私は信じている」
「では――」
 フーマが言いかけるのを、暖野は制した。
「私からご説明します」
 イリアンが頷く。
「正直に言います」
 暖野はひと呼吸置く。「私たちはあの時、確かに時空移動をしたと思います。――私の過去、昔通っていた学校に移動しました。ですが、それは望んでしたことではありません。
 私は、何かの拍子に自分の過去に飛ばされました。どうしてそうなったのかは、私にも分かりません。ですが――」
 暖野は真っ直ぐにイリアンの瞳を見据えた。「フーマ――カクラ君は、それに巻き込まれただけです。私が、巻き込んでしまったんです」
 イリアンが息をつく。
「君たちは、そこで何かしたのかな?」
「いえ……。誰もいませんでした。……時間が停まっているというか、存在していない空間というか……うまく言えないです」
「あとは?」
「そこで……」
 暖野は言い淀んだ。
「何か、見たのかな?」
「学院長」
 フーマが口を挟む。「これは、尋問でしょうか」
「尋問、か……」
 イリアンが目を伏せる。「確かに、そうだね」
「これ以上、彼女を苦しませるようなことは――」
「誤解しないで欲しい」
 イリアンが幾分力を込めて言った。「私は、君たちを責めているわけではない。恩着せがましく聞こえると心外だが、本来このような案件は学寮部の範疇なのは、知っていると思う」
「はい」
 フーマが言う。「なので、学院長直々のお呼び出しを訝しく感じているのです」
「そうだね。それはそうだろう」
「何か、理由があるのですね?」
 フーマが問う。
「その通りだよ、フーマ・カクラ君」
「それは、何なのですか?」
「そう……。それは、外ならぬ、ノンノ・タカナシ君に関することだからなのだよ」
「それは――」
「ノンノ・タカナシ君」
 フーマが言うのを遮るように、イリアンは暖野の方を見た。「君には少し辛い話になるかも知れないが、いいかね?」
「学院長」
「君は、黙っていてくれるかな。私は彼女に聞いている」
 イリアンがフーマを制する。
「はい……」
 暖野は答えた。
「まず、我々が感知した時空波は、君たちがこことは別の時空へ移動したことを示していた。だが、その先はどこへも繋がっていないようだった」
「それは……」
「今、君が話してくれたことも加味すると、その時空は、君のもつ幻想空間である可能性が高い」
「それでは、時空移動とは言わないのではないでしょうか?」
「時空とは、様々な形態を持つ。時には時間のみ、また時には空間のみ。だが、君たちが移動した世界は、その中で移動が可能だった、そうではないかね?」
 確かにそうだった。二人は中学校の中を移動した。移動が可能だとしたら、時間もあるはず。
 だが、そうだろうか?
 以前、緊急警報が鳴ったとき、ここの時間は停まっていたはず。にも拘わらず、暖野とフーマだけは動くことが出来た。
 これは一体どういうことなのだろうか。
「確かに、私たちはあの世界で動き回ることが出来ました」
 暖野は言った。
「本来存在しない世界、空間のみの世界に、君たちは時間を付加した」
「そんなことが――」
「出来るのだよ。君には」
「そんな……」
「学院長、もう止めて頂けませんか。これは、彼女にはあまりにも酷です」
 フーマが言う。
「それは分かっている。だが、カクラ君も気づいているのではないのかね? 彼女のことを」
 その言葉で、暖野はフーマを見た。
「……」
「すみません!」
 暖野は言った。「それは何なんです?」
 そう、これまで誰もが教えてくれなかったこと。自分に関する大切な事のはずなのに、知ることを許されなかったこと。
「教えてください! 私は、何者なんです?」
「落ち着きなさい」
 イリアンが穏やかに制する。
「そんなこと、出来ません! みんな知ってるのに、私だけ知らないなんて、おかしいです。私のことなのに、私が知ったらいけないなんて、そんなのは理不尽すぎます!」
 イリアンが哀し気な目をする。
 これは――
 暖野は思い出した。
 沙里葉で初めに会った時のマルカの目。
 大事なことを忘れていると言った時の、知らない方がいいと言った時の目の色。
「君には、その覚悟はあるのかね?」
 イリアンが問う。
 暖野は考えた。
 聞くのは恐ろしい。
 言えないほどの、容易に明かすことの出来ない秘密。
 フーマもマルカも、そして目の前のイリアンにすら語ることを躊躇わせるような何か。
「……お願いします」
 暖野は言った。
「おい、やめろ」
「いいの」
 フーマが言うのを、暖野は遮る。
「分かった」
 イリアンが言った。「私は当事者ではない。あくまでも、これは仮説として聞いて欲しい」
「学院長」
「君の気持は分かる。だがね、彼女の決意を止める権利は君にはないということも、分かっているのではないのかね」
「……」
 フーマが暖野を見る。「いいのか? 後悔しないのか?」
「分からない。後悔するかも知れない。でも、いま聞かなかったら、もっと後悔すると思うから」
「そうか……」
「うん。ありがとう。心配してくれて」
 暖野はイリアンに向き直った。「どうか、話してください」