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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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「後になって、そうだったって気づくんじゃなくて。今、ここにいてくれることが、幸せだって思う」
「もし、俺がいなかったら。俺に出会うことがなかったとしても、お前は幸せだったか?」
「それは、分からない。だって、最初から出会うことがなったのなら、それと比べることなんて出来ないし。でも……そうね――」
 暖野は少し考える。「リーウとそれなりにしゃべって、それなりに幸せを感じてたかも」
「俺もそうだっただろうな。ただ毎日勉強して、他のやつらがしていることを横目で見て、それだけだっただろう」
「でもね、フーマと出逢わない人生なんて、私、考えられない」
「そうか」
「馬鹿ね、私。余計な事いっぱいしゃべって」
「俺は、嬉しい。お前がどう考えながら、どう生きて来たのか。お前に繋がる時間を知ることが出来た」
「ありがとう。でもね、これって、本当の私なのかなって、やっぱり思ったりする。私って、変なのかな」
「お前は、おかしくはない。そういう思いは、俺にもあるような気がする」
 その言葉に、フーマが辛そうな顔をするのを、暖野は見逃さなかった。
「そうなのね……。フーマはいつも、私を気遣ってくれるけど、時々何か隠してるような……」
「隠しているわけではないが」
「じゃあ、話して」
「……」
 フーマの視線が揺らぐ。
「やっぱり、話せないの?」
「知りたいのは分かる。だが……」
「それも、私のため?」
 暖野は、フーマの瞳を捉えたまま離さない。
「……」
「……分かったわ」
 暖野は言った。「フーマは、私を守るって言ってくれた。今、話してくれないのも、そのためなのよね?」
「ああ」
「私、フーマを信じる」
「助かる」
「ふふ……」
 暖野は笑う。「助けられてるのは、私の方、なんだよね」
「お前は……本当に、強いな」
「私? 強くなんかないよ。アルティアさんに大怪我させたり学校壊しかけたり、そういう意味だったら、ちょっと強いかも知れないけど」
「そういう冗談は、よせ」
 フーマが真顔で言う。
「うん。そうよね。――でも、私は弱いよ。フーマに守られてなかったら、何にもちゃんと出来ない」
「それは違う。お前は、俺がいなくても、いずれは自分でそれを成し遂げたはずだ」
「成し遂げるって、何を?」
「お前が、お前自身でいることを」
「そうなのかな。私、フーマがいてくれるから、安心していられる。だから、自分を信じていいって思えるようになった」
「そう言ってくれるのは、嬉しいが」
 フーマが言う。「俺は、お前にはそれが可能だと思っていた。初めてお前を見たとき、その時には気づかなかったが、俺が感じたのはそれだと思う」
「なんだか、ややこしいのね」
「すまない。上手く言うことができない」
「いいのよ。私だって、上手く言えない」
「だが」
 フーマが暖野の瞳を見据える。「お前は、お前自身でいるときが、一番美しい」
「え……あ……」
「鳥は花にはなれない、空は、海にはなれない。それぞれが、それぞれそのものであるからこそ、美しい」
「じゃあ、私は何?」
「暖野は、暖野だ。他の何ものでもない」
「それ以上には、なれないってことね」
「なる必要はない。お前は、ただそれだけで、かけがえのない存在だ」
「ありがとう……」
 フーマが暖野から視線を外す。そして教室内を見回して言った。
「だが、どうする? このまま、ここにいるわけにはいかないだろう?」
「うん。そうね」
「戻れる方法は……分からないか」
「ごめんなさい」
「お前が謝る必要はない」
「うん」
「ここは、お前が昔いた場所のはずだな」
「ええ」
「だが、お前の時代、学校に誰もいないということはあるのか?」
「休みの日なら、あるかも」
 考えてみる。
 そう、休日でも、部活はあったはず。特に運動部。
 だが、練習の掛け声も聞こえない。
 時間は、さっき見た時は2時だった。
「ここは……」
「待って」
 フーマの言葉を遮って、暖野は言った。「屋上に、行ってみましょう」
 あちこち動き回るより、それが一番早いと思った。
 暖野の通っていた中学校は、離れた所に第二グランドもあった。何かの倉庫の向こうには国道があり、ファーストフードの店もあった。
 暖野も、おかしいとは感づいていた。ここは、あまりにも静かすぎると。
 教室を出て、廊下を階段の方へ進む。
 途中、トイレの前を通るときにまた、暖野は気を失いかけた。
 何度か支えられながら、暖野は階段を上がる。
 4階からさらに上へ。
 新校舎は、この学校で一番高い。
 屋上へ出る鉄扉を開ける。
 風が強く感じられた。
――だめ――!
 え――?
 暖野は見回す。
 不意に襲われた幻聴。
「どうした?」
 フーマが訊く。
「ううん、何でもない」
 フェンスに寄る。
 下のグランドにも、その向こうの第二グランドにも人影はない。
 幹線道路で、いつも渋滞していたはずの国道にも、一台の車もなかった。
――来ないで!
 何――?
――来ないで! みんな、私なんか!
 フェンスに登っている少女。片手で最上部の有刺鉄線を握っている。その手から……
 ああ……!
「おい! どうした!」
「ごめん、フーマ。私、何かおかしい」
「ここは、いけない。戻ろう」
「う……うん……」
 風が、舞う。意識が舞う。
 誰もいなかったはずの屋上にざわめきが拡がる。
 少女の目に見据えられて、その一点へと収束する。
 あ――
 手を放す少女。
 浮遊感。
 安堵、救い、解放……
 涙。
 そして、微笑……
 これで――
 終わり……

 フーマ……
 お願い……