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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 この人はきっと、頑張りすぎたんだ。
 暖野は思った。
 自分のことが見えなくなるくらいに頑張り過ぎた。
 同情?
 それは違うと、暖野は思った。
 自分には、そこまで頑張った経験はない。
 また、そうしなければならないほどのことも、なかったはずだった。自分を見失うほどに頑張った結果が、自分の一番大切なものを失うことに繋がってしまう。アルティアは、きっとそんな自分を許せないのだろうと思った。
「アルティアさん」
 暖野は言った。「あなたは、級長じゃなくても、あなたですよ。少なくとも、私はそう思ってます」
 はっとしたような表情で、アルティアは暖野を見る。
 暖野も、自分で言っておいて驚く。
 これは、いつもフーマが暖野に言ってくれることだったからだ。
 ――それは、お前がお前だからだ――
 肩書でも何でもない、ありのままを受け容れる。
 あれだけのことをされておきながら、暖野はアルティアに対して何の怒りも覚えなかった。むしろ、彼女の抱えていた不安を感じ、胸が痛くなる思いだった。
 そうか――
 哀しいとか、寂しいって、こういう言い方もあるんだったっけ――
 胸が痛む。
 思いと言葉が循環して、ひとつに繋がる。
「アルティアさん」
 暖野は、彼女の目を見据えて言った。「でも、今はあなたは級長です。戻って来てください」
「ええ。ありがとう」
 アルティアが言う「頑張ってみる」
「もう、頑張らなくてもいいんですよ。そのままで」
「そうね。あなたの言う通りだわ」
「じゃあ、もうあんまり無理しないで下さいね」
「ええ、あなたこそ」
 そして、アルティアが暖野を見つめる。「それと――」
「何か?」
「いいえ、何でもないわ」

 窓の外には輝く湖面。
 陽光を受けて緑が眩しい庭園。
 その中を行く二つの影。
 外の世界と、こちら。
 光と、影。
 決して届かぬ鏡の向こう。
 すぐそこにある世界。
 光あふれるその先には……
「私は……」
 アルティアは窓ガラスをなぞる。「いても……」
 白いカーテンさえくすんで見えた。
 鳥が飛んで行く。
「いいのよね……」
 自由に、遠くへ。