久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下
雷鳴は、雷が落ちてからしか聞こえないということを。
だから、音はあてにならない。
雲の中の気配を読むしかない。
致命傷は負わなくとも、直接狙って来るはず。
逃げ場はない。
ずぶ濡れの二人が空中で対峙する。
再び見える場所に現れた対戦者を、生徒たちが固唾を呑んで見ている。
来たら、跳ね返せばいい――
それなら、電光が放たれた瞬間こそが勝機かもしれないと、暖野は考えた。
フーマ――
暖野は思念を送る。
だが、反応はない。
やはり、力の共有と思念伝達は別なのだと暖野は思った。
下は下で頑張ってくれている。
「助けたい?」
アルティアが言う。
暖野は返事をしない。
「助けてあげてもいいのよ」
力の増大が感じられた。
「でもね――」
アルティアの髪が逆立つ。「あなたが負けたら、それで終わりなの!」
「分かってる!」
光の炸裂。
暖野はアルティアのいる方へ向けて水流を放つ。
しかし、その時にはアルティアは暖野の後方に回っていた。
雷に打たれた地表から煙が上がっている。
生徒たちの悲鳴。
地表を覆っていた煙が徐々に風に流され薄れてゆく。
教師が何か叫んでいる。
音が、消えた。
暖野は、そこに見てしまった。
「アルティア……さん?」
抑えられない怒り。
自分でも分かっていた。だが、どうしようもなかった。
「……許さない」
アルティアがたじろぐ。それは、暖野の鬼気迫る雰囲気を見てのことではなかった。
暖野とアルティアの間に火球が出現する。
それは火花を散らし、急速に成長する。
「タカナシさん、私は……」
先ほどまでの挑発的な口調とは打って変わって、戸惑いに満ちた口調でアルティアが言う。
そんな言葉も表情も、今の暖野には通用しなかった。
制御を失った力。
暖野は無秩序に力を放つ。
火球と同じ場所に水の塊。
さながら水中に燃え盛る炎。
炎と化した水。
地上では、フーマとクーウェがようやく身を起こしたところだった。
だが、暖野にはそれが目に入っていない。
「許さない!」
一面が光の炸裂に覆われた。
光そのものが圧力を有し、その中で無数の色彩が乱舞した。
全てが、無音のうちに展開した。
凶器と化した水滴が舞い、死の虹となってアルティアを包んだ。
作品名:久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下 作家名:泉絵師 遙夏