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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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9. 対決


「アルティアさん……」
 暖野は言った。
 既に他のチームは敗退し、暖野とアルティアのチームだけが生き残っていた。
 そこで、暖野はアルティアから対戦を求められたのだった。
 しかも、ふたりだけで、と。
「あなたはこの学院のホープでありクイーン、そして私はエース。力較べにお互い不足はないはず」
「でも、二人だけでって」
「言葉通りよ」
「これは実習で、三人一組なんじゃ……」
「もちろんよ」
 アルティアが言う。「だから、あなたのサポーターは私のところの二人と闘ってもらう」
「アルティアさん……。あなた、どういう――」
「あなたの力を知りたい。それだけ」
「そんなの、私だけじゃ……」
「やってみないと分からないでしょう? それに、作戦や指示は制限しない」
 暖野は、アルティアの真意を諮りかねた。「救援は、私たち二人に危険がある場合にのみ」
 いずれにせよ生き残ったチームは自分たち2チームだけ。
 対戦自体はやむを得ない。しかし、リーダー同士の一騎打ちなどあっていいものかどうか。
 これは、挑戦状なのか。
 だとしたら、何のための――?
 暖野はフーマの方を見た。
 彼が頷くのを見て、暖野はアルティアに正面から向き直る。
「分かりました」
 どうしてこうなったのかは分からない。しかし、この場を逃れることは不可能そうだった。
「じゃあ、よろしくね」
 いつものアルティアの笑顔。いつか、暖野のことを案じてくれたときの表情。
 しかし、すぐさま柔和なその表情が険しくなる。
 いつしか遠巻きに生徒たちが集まって来ていた。
 教師が準備はいいかと訊ねる。
「フーマ」
 暖野は言った。「私、やってみる」
「最悪の場合は、降伏しろ。無茶はするな」
「分かってる」
 笑って見せる。
 教師が、笛を口にあてがう。
「全力で来て」
 と、アルティア。
 暖野は頷く。
 試合開始の合図。
 同時に二人は互いから離れる。
 しばしの対峙。
 眼光だけで互いをはかり合う。
 見守る全員が息を呑んで二人の様子を見つめる。
 どちらかが動いたとき、均衡が崩れる。
 アルティアが言ったように、他のメンバーは各々戦闘を始めているようで、こちらに加勢する様子はない。
 誘うか、待つか。
 判断に迷ったが、暖野はいつでも浮揚できるよう心の別の部分で集中する。
 動いた――
 それは、ほんの微かな動きだった。
 アルティアが左足に力を込め、地面を踏みしめるのが分かった。
 左に力を込めた。ならば、右か――
 フェイント――?
 考える余裕はなかった。
 アルティアが一瞬右に移動したかと思うと、すぐさま上空へ飛翔した。そのまま左へ転向して錐もみのように暖野に迫る。
 暖野は直前でそれを躱し、後方へと跳んだ。
 逃れたと思う間もなく、次の手が迫る。
 暖野のすぐ右側で地面が弾け、砂煙が上がる。
 これが、疑似爆発――
 でも、まだ本気じゃない――
 次いで左前方、後方、前方で爆発が起こる。
 これは、見せかけ。試してるだけ。じゃあ――
 暖野はその場を動かずにアルティアの目だけを見る。
 来る――!
 数歩退がる。
 それまでいた地面が炸裂する。
 視界が砂煙に覆われる。
 されるか――!
 暖野は上空へ。
 見透かされてた――⁉
 待ち構えるアルティア。
 力を抜く。
 そのまま落下。
 技法を使って何かをすると思っていたらしいアルティアの意表を突く。
 今――!
 上手くいかなかったが地面に激突する寸前に水平方向へ。
 バランスが取れずに転倒して転がる。
 間断ちなく続く小規模な攻撃。
 弄ばれてる――?
 地上では態勢を立て直すのが不利だと察した暖野は再び浮揚する。
 そのままアルティアに突進する。
 案の定躱されてしまうが、それは最初から分かっていた。
 暖野は速度を緩めずに林へと逃げ込んだ。
 奥まった、ちょうど今来た方角からは死角になっている木の幹にもたれ、肩で息をする。
 このままでは体力が保たない。
 技量ではアルティアの方が遥かに上だ。
 隠れていられるのも時間の問題だった。
 すでに居場所は知られていると思った方がいい。
 では――
 暖野は集中した。
 自分より離れた場所。行ったことはないが、林の中などどこも似たり寄ったりのはず。
 今の位置からそこまでのルートを想像する。
 そして、解放。
 風が、暖野から想像した位置までを駆け抜ける。
 少しは効果があったようだ。
 近づいてくる気配が薄れる。
 意識を別の方に向ける。
 次は、気配のする後方へ。
 発生個所は自分のいる場所から外して。
 そうでなければ、発生源がばれてしまう。
 そうしている間にも、暖野は次の手を打つ。
 水。
 昨日、フーマが危険を察して助けてくれた術。
 間に合わなかった。
 暖野の立っているすぐ横の枝が吹き飛ぶ。
 咄嗟に地面に伏せる。
 思う間もなく頭上を覆う枝の間からアルティアが襲い来る。
 横へ転がる。
 木の根に当たる。
 何とか立ち上がったものの、次の動きが封じられる。
 体が動かない。
「これまでよ」
 アルティアが迫る。
「そう……かな?」
「あなたに、出来るかしら?」
「やる……の……よ」
 自由にならない口で、言葉を絞り出す。
「本気でって言ったはずよ」
 焦らすように、アルティアが一歩、また一歩と近づく。
「……」
 暖野はアルティアを睨む。
 真意は分からない。だが、この勝負は、絶対に負けてはならない。
 林の中を、風が吹き抜ける。
 爽やかな風。
「その程度? それとも、自然の風?」
 落ち着いて。落ち着いて――
 挑発に乗っちゃだめ――
 風が止む。
 先ほどまでは快晴だった空が、今は暗くなっている。
 暖野は不敵な笑みを浮かべる。
 アルティアが上を見るのと、それが起こるのが同時だった。
 大量の木の葉や塵、小枝がアルティアめがけて降り注ぐ。
 その間に自分の周りに壁を作ろうとする。
 水の壁を。
 ダメ――
 すぐ横で砂塵が舞い上がる。
 その塵の幾つかが形を取って暖野の周囲を飛び交う。
 こんなのって、有りなの――?
 それはまるで刃のようだった。
 でも――
 水!
 やけくそで暖野は叫ぶ。
 音もたてず、水の塊が落ちてくる。
 水圧で二人とも地に叩きつけられる。
 立っていられない。
 重力に抗うように、暖野は浮揚しようと試みる。
 一瞬の差。
 暖野はアルティアに迫る。
 地面が水に覆われているため、砂塵は発生しない。
 いける――!
 横ざまに弾き飛ばされる。
 水の影響を受けていない場所から砂塵を飛ばしたようだった。
 これじゃ、意味ない――
 暖野は一旦上空へ退避する。
 フーマとクーウェがそれぞれ闘っているのが見える。
 フーマが苦戦しているのは、おそらくアルティアの作戦のせい。
 どうせ暴走するなら――
 暖野は力をフーマとクーウェに送るイメージをする。
 上手くいってくれるといいけど――
 知らぬ間に、上空に暗雲が立ち込めている。
 不自然なのは明らかだ。
 何をするつもり――?
 雷――!?
 こんなのって、許されるの?
 これ、授業なんでしょ?
 暖野は知っている。