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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 林の中、東屋の上、展望台の端、様々な所から生徒たちが姿を現す。こんなにも多くの人数を相手にしていたのかと、暖野は驚いた。
 暖野は力を緩めようとしたが、なかなか地上に戻れない。
 だが、フーマの手助けでどうにか着地できた。
 教師はその間、力で男子生徒の方を持ち上げ、首が締まらないよう保持していてくれた。
「ごめん。苦しかった?」
 暖野は男子生徒に謝った。
「死ぬかと思った」
「ごめん」
「いいよ。ゲームなんだから」
 この休戦は、敗者を解放するためのものだった。
 敗者を捕らえたまま乱戦になると、生命に関わる。実際、あの時点で他の者に襲われたら、男子生徒の襟を掴んだまま飛び回らなければならなかったはずだ。
 突然、丘の中腹で土煙が上がる。
 その場にいた全員がそちらを見た。
「ワッツのやつ、派手にやっているな」
 フーマが言う。
「あれ、アルティアさんなの?」
「あいつの得意技は疑似爆発による煙幕だ」
「そんなのがあるんだ……」
 出来れば対戦したくないと暖野は思った。
 休戦状態なのはこのエリアだけで、他のチームは試合を継続しているようだ。
 さきほどの男子生徒が去ったあと、再び散開状態からの開始となった。
「フーマ」
 暖野は言った。
「何だ?」
「これ」
 髪を数本抜いて、それを縒(よ)る。
「昨日のが、まだあるぞ」
「腕、出して」
 言われるままに、フーマが手を出す。最初は右手、だがすぐに左手を差し出した。
 暖野はその手首に髪を結び付けた。
「どういうつもりだ?」
「何か、考えてみて」
「……」
 フーマが、暖野を見つめてくる。
 特に何も感じられなかった。
 暖野は自分の念を送ってみる。
「何か感じる?」
「特に」
「そう……」
 互いの体の一部を所有することで思念も共有出来はしないかと考えたのだが、どうもそうはいかないようだった。
 ならば――
「私が暴走しそうになったら、力を奪うことは出来る?」
 そう、過剰な力の放出を、昨日のような力技ではなく吸収してもらえるのではないか。
「それは、分からないな」
「ねえ、何の話なの?」
 訳が分からず、クーウェが訊いてくる。「それより、また来てるよ」
「分かった」
 フーマが言う。「やってみよう。だが期待はするな」
「うん」
 暖野は頷く。そして、クーウェにも縒わないままの髪を渡す。「これ、持っといて」
「え? 何? 何かのおまじない?」
「そうよ」
「来たぞ!」
 フーマが表情を引き締める。
「右ね。それと――」
 と、暖野。
 大体感覚は掴めて来た。
「思う存分暴れろ」
「やってみる」
「左!」
 クーウェが叫ぶ。
 暖野は飛び退く。
 敵に意識を集中させつつ、舞い上がる。
 他にも何か所かで戦いが繰り広げられているのが見えた。
 相手は散開している。
 攻撃を仕掛けているのはリーダーではないと判断した。
 では――
 二方向からの攻撃。その間に別方向から本命が来る。
 風――
 思う間もなく、下から突き上げる風が上空へと突き抜ける。
 それはある程度の高度に達すると、見えない壁に遮られたかのように反転し、下降気流となって襲い掛かってきた。
 気づくと、暖野を狙っていたチームの三人がクーウェによって捕らえられていた。
「今のは……」
 暖野は言った。
「お前が風を生み、俺が壁を作った。そして、影響範囲を絞るのはイアテカがやった」
 見事な連係プレイだった。
 先ほど渡した髪のせいかどうかは分からない。
「ありがとう」
「礼なら、イアテカに言ってやれ」
 彼女は今も、周囲に気を配っている。
「ありがとう、クーウェ」
「平気よ! こんな面白い実習はじめて!」
 目が異様な輝きを帯びている。
 なんか、変に闘争心を目覚めさせた――?
 周囲は、初めの頃と比べて随分静かになっていた。
 あちこちで起こっていたはずの戦闘の気配も、今はほとんど感じられない。
「いよいよ本命か」
 フーマが言う。
「本命?」
「どうやら、生き残ったのは俺達と――」
 そこまで言った時だった。
「タカナシさん」
 暖野は声の方に向き直った。
「おめでとう」
 アルティアだった。
「アルティアさんも、勝ち残ったのね」
 暖野は言った。
「そう」
 アルティアが言う。「私たちが、最後の生き残り。私と、あなた」
「……」
 真っ直ぐに見つめてくる瞳に、暖野は言葉を返せなかった。
 しばしの沈黙。そして――
「どう? 二人だけで対戦してみない?」
 微かな笑みを浮かべて、アルティアが言った。