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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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8. 挑戦


「いいか」
 フーマが言った。
 暖野は黙って頷く。
 作戦時間後、各班は裏山に散開した。
 茂みに隠れたりするのは嫌だったので、暖野は丘の上の展望台に行くことにした。
 今、三人は頂上にある東屋に陣取っている。見晴らしはいいが、それは敵からも丸見えということでもある。
 幸いなことに、クーウェは偽装術の他に気配を感じる能力もあるということだった。つまり、他チームが偽装して迫って来ても、すぐさま察知できるということだ。
「他のやつらは?」
 フーマが、クーウェに訊く。
「随分とばらつきがあるようです。幾つかのチームが共同戦線を張っています」
「この辺りはどうだ?」
「今の所、気配はありません」
「よし」
 暖野は思った。気配を察する力があるのなら、それを消すものもあるのではないかと。もっとも、それが偽装なのかも知れないが、詳しいことまでは分からない。
「それは問題ない」
 それが、暖野の疑問に対するフーマの答えだった。
「だって、気配がなかったら」
「お前は、気配だけで相手の存在を知るのか?」
「え? だって……」
「普通は、目で見るだろう?」
「そりゃあ――」
「どちらか一方に偏り過ぎると、見えるものも見えなくなる。人間はたとえ目に見えているものでも、見ようとしない限りは見えないも同然だ」
「それは、つまり――」
「そうだ。術に溺れるな。力は人を惑わす。だがそれは感覚操作だ。目に見えているにもかかわらず、それを意識させないように作用する」
 言われている意味はわかるような気がする。つまり、目に見えていることと感覚のバランスを取れということなのだと。
 だが、そんな高度なことが自分に出来るのだろうかと、暖野は不安になる。
「上」
 暖野は言った。
 特に何かを感じたわけではない。ただ、急に上という言葉が口を突いて出た。
「よし!」
 フーマが、暖野の前から消える。
「え? 何!?」
 気づいたとき、フーマは一人の女生徒を捕まえていた。
 その女生徒は、気配を消して上空から直接に暖野を狙って来たのだった。
「よくやった。さすがだ」
「私、べつに」
 満足げなフーマに、暖野は言う。
 実際、自分は何もしていない。ただ、上と言っただけなのだ。
「あちゃー」
 捕まった女生徒が言う。「やっぱり無理だったか」
 その顔は悔しがっているようでもなく、むしろ清々しい笑みを浮かべていた。
「アルティがいないから、やれると思ったけど、やっぱり無理だわ。あんた達最強」
「それは残念だったな」
 あくまでもフーマは冷静に言い放つ。
「私、あんた達のチームに賭けるわ」
「突撃など、最後の手段だ」
「それを敢えて最初にやる作戦だったんだ」
「奇襲か。勝てればいいが、勝ち続けるのが難しい戦法だ」
「そうだね。勉強になったよ」
 そう言って、女生徒は去って行った。
「いいの?」
「敗者は自己申告だ」
 それが、せっかく捉えた敵を簡単に解放することに対して暖野が発した疑問に対する、彼の答えだった。
「イアテカ!」
 フーマが厳しく言う「お前は何をやっていた!」
「す、すみません!」
「敵はいつどこから攻めてくるか分からない。全てに気を使え。いいな?」
「は、はい!」
 見ていて可哀想なほどに、クーウェは縮こまって応えた。
「もう、いいよ。フーマ」
 暖野は言った。「クーウェもそこまでは分からなかったんだから」
「だが、お前もそうだが、できるだけ生き延びることが、イアテカにとっても実践経験が積める。机上の学習も大事だが、統合科学は理論だけでは成り立たない」
「うん、そうね」
 暖野はクーウェに向き直る。「勝ちましょ。最後まで」
「はい!」
 クーウェは目を輝かせた。
 奇襲失敗のことが知れ渡ったのか、それからしばらくは何事も起こらなかった。クーウェは絶えず周囲に気を配り、フーマも感覚を研ぎ澄ませている。ただ眠っているようにしか見えないが、決してそうではないことを暖野は知っていた。
「ねえ」
 クーウェが暖野の方を見ないまま言った。その目は焦点が定まらず、可能な限り全方位を視認できる準備体制である八方目(はっぽうもく)のまま。「あなた達って、付き合ってるの?」
「え……?」
 それ、こんな時に言うこと――?
 緊張状態を解かないように注意していても、つい気が逸れてしまう。
「ごめんなさい」
 その気配を察してか、クーウェが言った。
「うん」
 この状況だから言える。暖野は素直に答えた。「でも、言わないでね。誰にも」
「分かってるわ。でも、もうみんな気づいてるから」
 やっぱりね――
「だよね」
 暖野は笑った。
「お似合い過ぎて、羨ましい」
「おい」
 フーマが姿勢を変えずに言う。「集中しろ。来るぞ」
「三面攻撃」
 クーウェが呟く。
「出来るか?」
 と、フーマ。
「大丈夫」
 クーウェが、さっきまでの大人し気な雰囲気からは想像もつかぬような厳しい表情になる。
「よし、暖野。行け」
「え? 行けって?」
「奴らにお前は見えない。片っ端から捕まえろ。逃した奴はこっちでカバーする」
 そして、クーウェに言う。「一人で大丈夫か?」
「たぶん」
「よし、無理そうなら早めに言え」
「はい」
 どうやら、クーウェが偽装術で暖野を全く別のものに見せているようだった。同時にフーマが何か暖野には分からない力を用いているのが感じられた。
 最初は恐る恐る、そして相手が全く気づかないと知ると、暖野は自分でも気配を消すようにしながら背後から迫り、その腕を掴んだ。
「うわっ、やられた!」
 その男子生徒が声を上げる。
「おい! どこにいるんだ?」
 別の男子が駆け寄る。暖野は、驚いているその男子の肩をすぐさま掴む。
「やられた、俺も!」
 そう言うと、その男子が周囲に呼びかける。「気をつけろ! 油断するな!」
 その間にも固まって周りに注意を集中している他チームの間をすり抜け、暖野は次々と仕留めてゆく。
「気を緩めるな!」
 フーマの叫び声。
 暖野は一瞬立ち止まり、急いで飛びすさった。
 地面に紛れて女生徒が暖野に手を伸ばしていた。
 避けた方向から別の生徒が迫ってくる。
 逃げられない――
 暖野は上空へと退避する。
 真っ直ぐ昇るようにみせかけつつ、反時計回りに螺旋を描く。
 そして、上から回り込むようにクーウェの背後に回ろうとする。
 今の出来事で隙が出来たクーウェを狙う男子が目に入ったからだ。
 ダメ! ぶつかる――!
 飛んでいるうちは良かったが、勢いを制御できなくなっていた。
「突っ込め!」
 フーマが叫ぶ。
 暖野は出来るだけ制御しようと努める。
 地面すれすれまで落下し、激突すると思われた瞬間に右方向にさらわれる。
 思わず目を閉じてしまったが、恐怖から暖野は男子生徒の制服をしっかり掴んでいた。
「負けたよ! だから、放してくれよ!」
 フーマが力を緩めた途端に暖野は男子生徒の襟首を掴んだまま上昇していた。
「ごめん! いま降りるから!」
 笛の音が聞こえる。
 いつからそこにいたのか、教師が広場に立っている。
「ここにいる全員、一旦休戦!」