小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

INDEX|47ページ/110ページ|

次のページ前のページ
 

7. ハイド・アンド・シーク


「ノンノ、彼と一緒じゃなくていいの?」
 昼休み、暖野はリーウと共に食堂のオープンスペースにいた。
「だって、みんなの前じゃ恥ずかしいよ」
「いっそのこと見せつけて、公然の事実にしちゃえばいいじゃない」
「それ、ちょっと意味違うと思う」
「あんたがフーマの彼女だって知ったら、誰もあいつにちょっかい出さないよ」
「それは、心配いらない」
「どうしてさ。見方によっちゃ、あいつ結構男前だよ」
「大丈夫」
「あら、やけに自信満々じゃない」
「だって……」
「ま、聞くだけ野暮って話ね」
 リーウが苦笑する。
「それより、午後は実習だって言ってたけど、普通は1時間じゃないの?」
 暖野は訊いた。
「そうとは限らないよ。修復術とかだと一組ずつ指導入るから、時間かかるし」
「何の実習なのかは言わなかったよね?」
 暖野は教師の言葉を思い出す。「前庭に集合ってことは、どこかに移動するのかな?」
「かも知れないね。私は何度かあるけど、裏山とか」
「その時は何をやったの?」
「鬼ごっこ」
「鬼ごっこ?」
 暖野は思わず大きな声になった。
「目くらましの術と探索術、偽装術とか色々知ってる技法を使ってゲーム形式でやるの」
「聞いてるだけなら面白そうなんだけど」
「これも3人一組でやるんだけどね。たまに行方不明になるから指導員は複数つくのが通例」
「行方不明って……」
「やり過ぎて、どっか行っちゃうのよ」
「やり過ぎ……」
「そのために指導員増やすんだから、大丈夫よ」
 リーウが、暖野の肩を叩く。「たぶんね」
「たぶんって――」
「ノンノは大丈夫よ。王子様がいるんだから」
「あのね」
 暖野は睨んでやる。
 だが、王子様と言う表現は、あながち間違ってはいない。文字こそ違え、フーマは皇子なのだから。
「で、あんたの王子さまはどこに行ったのかしら?」
「その言い方はやめてよ」
「だって、ノンノを放ったらかしにしてるんだから」
「足を怪我してるのよ――」
 そこまで言って、暖野は自分がとんでもないことを忘れていたことに気づいた。「ごめん、リーウ。私、ちょっと行ってくる」
「え? いきなりどうしたのよ?」
「ごめん!」
 暖野は駆け出した。
 フーマは足を挫いているのだ。一日やそこいらで治るはずもない。彼は出来るだけ安静にしていないといけないのに、自分だけリーウと楽しく食事していたことが恥ずかしかった。
 売店でサンドイッチと飲み物を買い、教室へと急ぐ。また、何を急いでるのかとか言われそうだが、それはそれで構わない。
 教室に入ると、フーマは自席で本を読んでいた。いつものように。
 暖野は呼吸を整えて、彼の方へ真っ直ぐ歩んだ。
 フーマが顔を上げる。
「……フーマ」
「どうした? 何かあったのか?」
「これ――」
 持って来た包みを差し出す。
「俺にか?」
「ごはん」
「どうしてだ?」
 もう、いいから早く受け取ってよ――
「まだだと思って」
「一食くらい抜いたところで、死にはしない」
「そういう問題じゃなくって」
「どういう問題だ?」
「食べて?」
 フーマが、暖野をまじまじと見つめる。
「お願い」
「分かった。ありがとう」
 そう言って、フーマは包みを受け取った。
 改めて周囲に気が回るようになると、教室内にいる者全ての注目を浴びていることに気づいた。
「じゃあ、ちゃんと食べて」
 暖野は早足で教室を後にする。
 廊下に出た所で、リーウと鉢合わせした。
「ノンノ、意外と大胆」
「見てたの?」
「途中からね」
 今更ながらに顔が熱くなる。
 もう、教室に戻れない――
 だが、その必要はない。午後は前庭に集合となっている。
「なんか……言われるかな?」
 暖野は小声で、リーウに訊いた。
「言われないよ」
 あっさりとした返事。「噂は立つと思うけど」
「……」
「ま、やっちゃったことは仕方ないし。構えてりゃいいのよ」
「そんなこと言ったって……」
「みんなに知られたんなら、今度から堂々と話しかけたらいいだけ」
「他人事だと思ってるでしょ」
「だって、他人事だし」
「もういいよ」
 暖野は教室に背を向けた。
「待ってよ、私も行く」
「知らないっ」
「冗談だってば」
「知らないもーん」
 暖野は笑って駆け出した。
 廊下を走り抜け、階段を降りようとしたところでリーウに捕まってしまった。
「捕まえた!」
「危ないって!」
 背後から飛びかかられて、危うく二人とも階段を転げ落ちそうになる。
「おっと」
 引き戻されたはいいものの、今度は仰向けに倒れてしまった。
 この態勢でそうなれば、当然リーウは下敷きになる。
 二人は数名の生徒たちの目の前で思い切り倒れ込んでしまったのだった。
「重い……早くどいて」
 言われて、暖野はリーウの上に乗っていることを思い出した。
「あ、ごめん」
 ゆっくりと身を起こす。
 現場を目撃した生徒たちが、変わったものを見るような目で二人を見ている。
「やばい。逃げよう」
「ちょっと――」
 二人は結局、食堂の外まで戻って来たのだった。
「もう! ほんとにリーウったら強引なんだから」
「ごめん」
 リーウが手を合わせる。「だって、逃げられたら追いかけたくなるじゃない」
「あんたは猫か?」
 午後の授業の鐘が鳴る。
 休む間もなく二人は前庭へ走ったのだった。

 前庭には、すでにクラス全員が集まっていた。
 二人は少し遅れたが、なんとか教師に叱られずに済んだ。
「えー、これで全員揃ったな」
 いつもの甲高い声の教師が言った。「クラス委員、欠けている者はいないな」
「はい。全員揃っています」
 アルティアが答える。
「今日の特別実習は3時間、残り1時間は予備およびレポートに充てる。いいな」
 教師は他に二人いた。三人も教師が付き添う授業とはどんなものなのかと暖野は思った。
「では、班分けを行う。まず――」
 今回の実習でも、暖野はフーマと同じ班になった。ただ、アルティアは別の班に振り分けられた。
「食べてくれた?」
 隣に立つフーマに、暖野は小声で訊く。
「ああ」
「良かった」
「色々と、悪いな」
「いいの。私のせいなんだから」
「お前な――」
「そこ! 私語は慎むように」
 ばれないように話していたつもりが、見つかってしまった。
 二人は直立不動の姿勢で前を向いた。
「これから行うのは――」
 教師が話すのを聞きながら、目線は変えないままフーマに訊く。
「足、大丈夫?」
「大丈夫だ。少し痛むが、問題ない」
「――ハイド・アンド・シークをやってもらう。一人がリーダーで、残りの二人がサポート、使う術式に制限はないが、時空術と倫理に反する手段は厳禁。リーダーが捕縛された時点でそのチームは負けとなる」
「ハイド・アンド・シーク?」
「かくれんぼだ。知らないのか?」
「知ってるけど」
「――捕縛は身体的になされるものとし、術式による拘束のみでは勝敗は決しない」
 教師の説明は、こうだった。