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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 首の後ろで手を組んで、リーウが言う。「私も彼氏、つくろうかなあ」
「つくっちゃえば?」
「簡単に言ってくれちゃうのね。そりゃ、あんたは――」
 暖野は、リーウに黙るようにと唇に指を当てた。
 すぐ隣のテーブルに、他のグループが来たからだ。知らないうちに食堂は満席に近い状態になっていた。
「行きましょ、リーウ」
「そうね」
 二人は混雑した食堂を後にした。あとでお腹が空いてはいけないからと、軽くスナック類を売店で求めて、リーウの部屋に戻る。
「ね、ノンノは今回は二人部屋なんだよね」
「うん」
「今夜はノンノの部屋に行っていい?」
「それは、別にいいけど……」
「大丈夫よ。明日も授業なんだし夜明かししないから」
「うん……」
「それとも、一人であいつのことを考えてたい?」
「それは――」
 暖野は言った。「ちょっと、あるかな」
「幸せそうね」
「うん、たぶん、幸せ」
「多分じゃないでしょ?」
「うん」
「あんたの話聞いてると、こっちまでのぼせちゃう。お風呂行きましょ? 水風呂に突っ込んでやる」
「嫌よ! そんなの!」
 浴場では水風呂に投げ込まれることこそなかったものの、髪を洗っている最中に水を浴びせられたりした。
 他にも何人かいたが、飛び上がる暖野を見てリーウはお構いなしに声を立てて笑う。
 どことなく大人びた雰囲気のある統合科学院にあって、ふたりの戯れ合いは異質なことこの上なかった。居合わせた数人が、呆気に取られて見つめていた。
 さすがに腹が立ったので、暖野も不意打ちで水をかけ返し、最後には扉を開けて入って来た職員に叱責を受けてしまったのだった。
「あー、久しぶりに楽しかった!」
 リーウが体を伸ばしながら言う。
「もう、リーウのせいなんだからね!」
 脱衣場で髪を拭きながら、暖野は言う。
「いいじゃない。ノンノも楽しそうだったし」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「たまにはね、こんな風にパーっとやらなきゃ」
「やり過ぎ」
「だってノンノったら、大体いつも浮かない顔してるじゃない」
「そう?」
「ほら、今だって」
「……」
「幸せ真っただ中だってのに、急に沈み込むし。私もどうしていいか分からなくなる」
「そうなの? ごめん」
「ほら、また」
 リーウは、暖野の頬を摘まんで引っ張った。
「痛いってば、もう!」
「あんたはね、今は幸せだけを感じてたらいいの!」
「分かった。分かったから!」
「よろしい」
「ホントにもう。リーウったら強引なんだから」
「そうでもしないと、ノンノは勝手に沈むから」
「そう……かもね」
「もういっぺん、抓る?」
「ぶっ飛ばして欲しかったら」
 リーウが笑う。
「よし!」
 気合いを入れるように、リーウが言った。「語り明かそう」
「さっき、それはしないって――」
「冗談よ」
「また、儀式やりたい?」
 風呂上がりの牛乳の件だ。
「う……それは勘弁して。明日は朝から実習なんだから」
「そうなの?」
 暖野は嬉しくなって言った。
「そりゃあね、どうせあんたはフーマと組むに決まってる。もしかしたら今日と同じメンバー」
 一旦リーウの部屋に戻る。そこで必要な物をまとめて暖野の部屋に向かった。
「ここが、ノンノの部屋なのね」
 部屋に入ったところで、リーウは室内を見回す。
「うん」
「何回か二人部屋は見たけど、少し雰囲気が違う」
「そうなの?」
「たぶん一緒なんだろうけど、ノンノがいると違うように見えてしまう」
「何もないのに?」
「何もないから、かな」
「なんか、よく分からない」
「ノンノ、この部屋、気に入ってる?」
「うん。前のよりはずっといいし、落ち着ける」
「だからかな。ここがノンノの部屋だって思える」
 何もないとは言え、クッション等必要最小限のものは揃っている。暖野はリーウにクッションを差し出し、自分もベッドの上段から引き出して座った。
「ずっと、ここにいられたら楽しいんだろうな」
 枕を抱えて、暖野は言った。
「そうね。それが一番なんだろうけどね」
「通いって、しんどいね」
「そう思う。特にあんたは自由に行き来できないみたいだし」
「うん」
 暖野は目を伏せる。「向こうもね、色々あって」
「あれから、何か変わったこととかあったの?」
 暖野はトイのことや、それで感じたことなどを話した。
「なるほどねえ。あんたってば、恋人出来たと思ったら、いきなりお母さんにもなったんだ」
「お母さんなんて……」
「だって、そうじゃない。ご飯作るの楽しいとか躾とか、まるっきりお母さんじゃない」
「なんか、色々と微妙」
「そうだよね。分かるわ」
 リーウが何度も頷く。「あんたって、よくそんなことやってられるよね。感心しちゃう」
「そりゃ、私だってしんどいよ。でも、それ以上に喜んで欲しいって言うか……」
「それで、喜んでくれたら嬉しくなるんでしょ?」
「うん……」
「ノンノって、色んな意味で情に脆いのね」
「……かも。流されやすいって言うか」
「それは、ないんじゃないかな」
「どうして?」
「何となく」
「何となく……か」
「それでいいんじゃない? 何でもかんでも、はっきりしてるもんでもないんだしさ」
「そうかもね」
「ほら!」
 リーウがまた、暖野の頬を引っ張る。「またそうやって沈む」
「私だって、そうなりたくてやってるんじゃない」
「だね。確かに。巻き込まれタイプか」
「そうなのかな」
「思いっ切りね」
「全然嬉しくない」
「そうだね。私はどっちかって言うと――」
「巻き込みタイプ」
 暖野の言葉に、リーウが笑う。
「自分では自覚ないけど」
「お互いにね」
 暖野も笑った。