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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 ここには専属の職員はいないようだった。これまで一度も見かけたことがない。統合科学――魔術などという技法を学ぶに相応しい者しか、ここには来られないのかも知れない。ここで学ぶべき力は悪用すれば社会全体が崩壊してしまうようなものなのだから。
 暖野は教えられたように司書席で貸出し手続きを済ませる。とりあえず1冊だけ。ハードカバーなため、多くを持ち歩くのも厄介だ。
 ただ、本当の理由はそうではなかった。その気になれば、今夜までにも読んでしまえる。それよりも、暖野にはやるべきことがあった。
 やるべきこと?
 いや、そうではない。
 どうしても――
 会いたい。
 リーウには申し訳ないが、フーマに真っ先に会いたかった。
 暖野は教室へ向かう。
 階段を降りる途中でクラスの子と出会ったが、挨拶もそこそこに先を急いだ。
「おい、タカナシ」
 背後から声をかけられる。階段から教室へのちょうど真ん中辺りだった。
「え?」
 暖野は振り返る。
 そこに、捜している本人がいた。
「何を急いでいる?」
「え? ああ……その――」
 思いがけずフーマを前にして、暖野はしどろもどろになる。
「俺を捜していたのか?」
「う……うん」
 暖野は俯いてしまう。
「そうか」
 フーマが言う。「お前、いま来たばかりか?」
「ううん、少し前。授業中だったから」
「図書館にいたんだな」
 フーマが、暖野の手元を見る。
「ええ」
「扉は?」
 暖野は首を振った。
「やはり、二人一緒でないと入れないようだな」
「うん……」
 二人一緒と言われて、暖野は照れくさくなる。
「なあ、お前」
「何?」
「もう一度図書館に行ってみるか?」
「隠し部屋に?」
 フーマが頷く。
「私、なんだか怖い」
「そうだな。お前には酷かも知れない。だから、俺一人で行く」
「それは駄目」
 暖野は言った。「それなら、私も行く」
「だが――」
「お願い。一緒に連れて行って」
 暖野は縋るような思いで言った。
「分かった」
 フーマが言う。「次は実習だ。お前も出たいだろう?」
「え、ええ」
「じゃあ、戻るぞ」
「うん」
 教室の扉を開けると、中にいた者たちの視線を一斉に浴びてしまった。固まってしまった暖野の背を、周りからは分からない程度にフーマが押す。それで暖野はようやく歩くことができるようになった。
 フーマの方はといえば、何事もなかったかのように自分の席へと歩いて行った、
「リーウ」
 自席の近くまで行き、暖野は声をかけた。
「元気そうね」
 リーウが言う。そして耳元に口を寄せる。「上手くやってるみたいじゃない」
 途端に暖野は耳まで赤くなった。
「ノンノって、ホントに可愛いね」
「もう、リーウったら」
 いつもの調子のリーウに、気持ちが安らぐ。
「良かったね」
 リーウが微笑む。
「うん。でも……みんなに気づかれちゃったかも」
「そうかな? ほら」
 言われて教室内を見渡すと、誰も暖野の方を見てはいなかった。そしてフーマもいつも通り一人でいる。そのことに注意を払っている者も、やはりいないようだった。
 暖野は安堵の息をついた。
「次、実習って知ってる?」
「うん。さっき、カクラ君から聞いた」
「じゃ、一緒に行こうか」
 リーウが、暖野の手を取った。