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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 他にもっと優しい人はいる。むしろ、自分以外のほとんどの人がそうなのではないかと思えるくらいに。
 トイ、マルカ、リーウにそして……
 フーマ。
「ありがとう」
 暖野はそう言うしかなかった。
「ノンノ?」
 マルカが湖の方を指して言う。「あれは――」
 そこには、一艘の小舟が浮かんでいた。
「ここには、誰かいるのかしら?」
 だがよく見るとそれは無人で、ただ漂流しているだけのように見える。「――まさか!」
 乗って来たボートは、砂浜に揚げておいたはず。いくら広いからと言っても、湖にそれほど大きな満ち引きがあるとは考えられない。
「見て来ます」
 マルカが急いで駆け出す。
「気をつけて!」
 暖野はその背に向かって言った。そして、トイに向き直る。「私たちも行きましょう」
 心なしか、トイも青ざめているように見えた。
 森の中を砂浜に向かっている途中で、戻ってくるマルカと出会った。
「駄目です、ありませんでした」
「やっぱり」
 心の裡で、これは自分のせいじゃないと暖野は思っていた。
 いや、そうであって欲しい。
 島にいる間に船が行ってしまわないか全く不安がなかったわけではない。それでもボートの心配など全くしていなかったのだから。
 それとも――
 いや、考えるのはよそう。
 それよりも他に為すべきことがあるはずだった。
「僕たち戻れるの?」
「大丈夫よ」
 心配げにトイが訊いてくるのに、暖野は答えた。
 本当は、暖野自身不安だった。泳いで戻るには、船は遠すぎる。自分たちを乗せてきた船が沖合に停泊したと言うことは、この島には港がないか――
「トイ?」
 思いついて、暖野は言った。「少し探検してみる?」
 そう、大きな船は着けなくとも、ボートくらいなら繋げる入江などがあるかも知れないと考えたのだった。
「ノンノ、何をいきなり」
 マルカが言う。
 暖野はその考えを説明した。
「なるほど、その通りですね」
 マルカは納得して言った。「灯台があるのなら、可能性はあります」
「トイ、今から島を一周するのよ」
「うん」
 不安げだった表情に輝きが戻る。暖野はそれを見て、自分も少し勇気をもらえた気がしたのだった。
 上陸した浜に戻ると、そこにはマルカの言った通り、ボートは無かった。それほど水が満ちてきたようには見えない。だが、そんなことはどうでもよいことだった。ボートが無いのは事実なのだ。だとしたら、如何にして船に戻るかを考えた方がいい。
 砂浜の両端は岩場になっている。湖に向かって右側は切り立った崖になっており、採れるルートは左しかなかった。
「とりあえず、行ける所まで行きましょう」
 暖野は言った。「――一人で行ったら危ないわよ!」
 途端に駆け出すトイに、気をつけるように注意する。
「うん! 向こう側が大丈夫か見てくるだけだから!」
 トイが言った。
 小さいなりに気を遣ってくれているのが分かって、暖野は微笑んでしまった。
「ノンノ、今日も幸せそうですね」
 マルカが言う。
「そう?」
「ええ。トイと出会ってからのノンノは、毎日がとても幸せそうに見えます」
「そうかな」
 暖野は思う。
 確かに、トイと出会ってからは一日が経つのが早い。色々大変なこともあるが、それ以上に楽しいことの方が多い。この世界には勉強や試験など、時間を縛る何ものもない。その気になれば、トイのように無邪気に日々を過ごすことも可能なのだ。
 そして、それ以上に……
 充たされているという感覚。
 今は若干の寂しさを伴うにしても、確かに愛されているという充足感が暖野を穏やかな気持ちにさせていた。
「お姉ちゃん! おじさん!」
 岩場の上からトイが呼ぶ。
「はーい」
 暖野は叫び返した。
「大丈夫だよ! 危なくないよ!」
「分かった、すぐ行く!」
 暖野とマルカは歩調を速めた。
 トイは二人が追い付くまで、そこで待っていてくれた。それだけではなく、暖野が岩場を登るのにも手を貸してもくれた。
「ありがとう、トイ」
 暖野は言った。
「楽とは言えませんが、思ったより困難ではなさそうですね」
 暖野の横に立って、マルカが言う。
 確かに、前に笛奈から砂浜に出るために通った岩場よりは進みやすそうだった。
 三人は慎重に岩場を進む。道とまでは言えないまでも、まるで何者かが手を加えたかのように簡単に均されたルートがある。よく見ないと分からないが、登山で鍛えた暖野の目はそれを捉えていた。
「ここは、私に任せて」
 暖野は言う。
「ノンノ、どうしたのです?」
「私について来て。トイもよ」
「えー? 僕が隊長なんじゃないの?」
 トイが不満を漏らす。
「お姉ちゃんは、こういう所を歩いたことがあるの。それに、隊長さんはいつも一番前を歩く訳じゃないのよ」
「そうなの?」
「うん。前にも言ったでしょ? 二人より三人の方が強くなるって。だから、今は私が道を教えてあげる」
「道なんてないのに?」
「分かりにくいけど、あるのよ。だから、お姉ちゃんが先に行くの」
 トイにもマルカにも、ここはただの岩場にしか見えないようだった。暖野は遠くと近くを交互に見ながら進路を定めてゆく。遠目には見えても、近づくと道形は周囲の岩場に紛れてしまう。
「そうですね。ノンノは山登りをするのでしたね」
 慎重に進む暖野に、マルカが声をかける。
「ええ。こういうのは好きじゃないけど、時々あるから」
 岩場は、あと少しで終わりそうだ。その先は森になっている。道形はやや内陸に向かって緩やかに登っていた。
 そこまで辿り着くと、樹々の中には明らかな道があった。
「ノンノ、さすがです」
「お姉ちゃん、すごいね」
 マルカとトイが感心する。
 道があるからには、それは必ずどこかへ通じているはずだった。
 暖野はそれが船着き場であることを願った。他の二人も同様だったろう。
 しかし、そんな思いとは裏腹に道は勾配を急にしてゆく。このままではまた灯台に戻ってしまいかねない。
 暖野は立ち止まった。
 振り返ってみる。
 知らない間に分かれ道を見落としていたのではないか、そう思ったからだ。
「さあ。それは私も気づきませんでした」
 暖野の問いに、マルカも首を振った。
「僕、見てこようか」
「いいわ。とりあえずこの道がどこに続いてるのか、確かめてみましょう」
「じゃあ、僕が先に行って見てくる」
「そうね……」
 暖野は少し考えてから言った。「でも、みんなで行きましょう」
 これまでのように、危険は恐らくないだろう。それでも子ども一人を遠くまで行かせるのは躊躇われた。
 案の定、道は急になり、やがて灯台が見えて来た。
「戻って来てしまいましたね」
 マルカが言う。
「ええ」
「僕、もう一回見てくる」
「ちょっと!」
 暖野が止める間もなく、トイは今来た道を駆けて行った。
 道ははっきりしているし、迷う心配はないだろう。しかし――
 いつのまにか空が暗くなっている。森の中でもそうだったが、開けた場所に出てみると、その暗さに改めて気づかされた。
「まさか、降らないわよね」
「それにしても、雲行きが怪しいです」
 マルカも空を見上げる。
「マルカ、トイを呼んできて」