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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 持っていた硬貨でおはじきをしたりしながら時間を潰す。回頭している様子もないので、船は直進し続けているはずだった。
 突然、近くで鐘の音が聞こえて暖野は驚いた。
 それは2回鳴り、しばらく置いてまた2回を何度か繰り返した。
「何なの? 何があったの?」
 暖野は訊く。
「どこかに停まるんだよ」
 トイが答える。「比浅縫(ピアサヌイ)の時もそうだったよ」
「じゃあ」
「うん」
 前方には、島が肉眼でも確認出来るほどに近くなっている。停まるとすれば、そこしか考えられない。
 だが――
「何もないみたい」
 暖野が双眼鏡を覗きながら言った。
 島と言っても小島で、町はない。一番の高台に小さな灯台があるだけで、他に人工物は見えなかった。
「静かになったような気がしますね」
 マルカが言う。
 パドルが水をかく音が弱まっているようだ。これまで断続的にあった微かな振動も、いまは感じられない。
 船は徐々に減速してゆき、やがて小島の近くまで来て停止した。
「こんな所に停まって、どうするのかしら?」
 桟橋も艀(はしけ)もなく、迎えの小船もない。
「行ってみないの?」
 トイが訊く。
「え? だって、どうやってあそこまで行くの?」
「こっち」
 トイが暖野の手を引く。
「ちょっと」
 連れて行かれたのは、乗船口だった。
 すでにタラップが降ろされているのは、そこに着くまでに見えていた。
「これ」
 トイはタラップの下を指す。
「ボート?」
 そこには、階段に直接着けられた大きめのボートがあった。
「これで、向こうまで行けるよ」
「でも、自分で漕がないといけないじゃないの」
「私も、あまり無茶はしない方がいいと思います。ここにいた方が安全ですし、無理に上陸しなくても……」
 マルカが冷静に言う。
「嫌だ!」
 トイが言う。「探検するんだ!」
「探検ったって……」
「だってお姉ちゃん、約束したじゃない」
 約束なんて、してないけど――
 暖野は町が無くても探検は出来ると言っただけのはずだ。
 こういう時、親なら何と言うのだろうと、暖野は思った。可愛いからと言うだけで子どもの言い分にただ従うのがいいとも言えない。
「マルカ?」
 暖野は、マルカに助けを求めた。「どうしたらいい?」
「トイ。どうしても島に行きたいのですか?」
 マルカが訊く。
「行きたい」
「何をしに行くのですか?」
「探検!」
 マルカが溜息をついて、暖野を見る。
「そういうことだそうですが」
 全く役に立たないどころか、結局答えを丸投げされてしまった。
「分かったわ」
 暖野は言った。「じゃあ、漕ぐのはマルカね」
「え? 私がですか?」
「決まってるじゃない。私やトイに漕げって言うの?」
「……何だか、騙されたような気分です」
「気のせいよ」
 暖野は言い、トイの方を向く。「おじさんが連れて行ってくれるって」
「やったー!」
 大はしゃぎでトイはタラップを降りて行った。
「あの。私はどうすれば良かったのでしょうか」
「これで良かったのよ。たぶんね」
 情けなさげな表情のマルカに、暖野は言った。