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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 そうかも知れないと、暖野は思った。教室でリーウを待つつもりだったのに、何故かここへ来てしまった。それは、ここならフーマがいそうな気がしたからだ。
 暖野は伏し目がちに頷いた。
「離れたままで、俺たちの共有がどれほど維持されるのかは分からない。そして、それが切れた時に何が起こるのかも」
「ええ」
 二人の力の共有が終わった時、いきなり空中に投げ出されるのか、それとも空間ごと放置されるのか、はたまた……
「余計なことは考えるな」
 そう言ってフーマは自分の髪を一本引き抜き、暖野に渡した。「これを持っていろ」
 暖野も同じように髪を抜く。そして――
「こうしておいたら、失くさない」
 フーマの手を取り、その髪を指に結わえた。
「そうだな。ありがとう」
 そう言って彼も暖野の指に自らの髪を結ぶ。互いの体の一部が触れている限り、力の共有は維持されるはずだった。
「それで、これからどうするの?」
「記録を探す」
「さっき、読んでたみたいなやつ?」
「ああ。だがわざわざ隠し部屋を用意するほどだ。何か仕掛けがあるのかも知れない」
「仕掛けって――」
「怖がらなくていいだろう。そもそも俺達がここにいられるのは、それが許されているからだ。もっとも、それはお前の方であって俺ではなかったがな」
「じゃあ、とにかく本を見ていけばいいのね」
「本は読む者を選ぶ。必要なものは必要な時に与えられる。こちらが心を開いていれば」
 それは確か、マルカも言っていた。
 暖野は右、フーマは左の書架を見ることにした。天井まで届く書架は一往復するだけでは全てを見ることも出来ない。
 だが――
「あれ――」
 暖野は、ここからでは背表紙の文字も読めない高さにある一冊の本を指さした。
 フーマが近くに来る。
「どれだ?」
「上から二段目の――茶色の本」
「俺には分からない。右から何冊目だ?」
 見ると、茶色っぽい背表紙が幾つも並んでいる。
「足場、持って来てくれる?」
「分かった」
 暖野はその梯子に足を掛け、数段上がる。そして動きを止めた。
「あ」
「どうした?」
「あの……」
 このまま上がれば、スカートの中が丸見えになる。
 フーマが言う。
「向こうを向いている。いいから行け」
「う……うん」
 少し不安定な梯子を上りながら一度下を見たが、フーマは窓の方を向いたままそれを支えていた。
 暖野は本に手を伸ばし、それを手に取った。長い間誰にも触れられなかったためか、埃が舞う。
 思わず咳き込み、バランスを崩す。片手は梯子を握っているため、必然的に本で顔を庇ってしまった。そのせいで更に埃が散ってしまう。
「そのまま手を放すな!」
 フーマが急いで昇ってくる。背中から体ごと支えて、暖野から本を取った。
「もう、大丈夫。有難う」
「お前は、色々と危なっかしい」
「ごめん」
 下に降りると、フーマが本を机の上に置く。
 表紙には模様が描かれているだけで、タイトルはなかった。背表紙も同じだった。なぜこの本だと思ったのか、暖野自身分からない。
 フーマは暖野の手形のついた本の汚れを拭き取り、表紙を開いた。
 何も書かれていない。
 何ページかめくって行き、ようやく文字のあるところまで行き着いた。

――緊急警報詳報――

 二人は顔を見合わせる。
 そして、寄り添うようにそこに書かれたものを読んだ。

――第五八期三限二八。
 学内を含む全域に緊急警報発令
 特異点時空変調
 複数時限よりの侵害感知
 静位置防御機構無効
 次元防御不能
 思念波不明
 無意識レベル、マナ暴走
 第一一八銀河八象限衰退
 基底波消滅 対象不明
 自己修復 確認中

「何、これ?」
 暖野は言った。緊急警報がどこかの時点で発生した際の記録のようだ。
 フーマは黙って次の記載を探す。「ねえ、これは何なの?」
「この第一一八銀河八象限は、俺たちの時空域だ」
 フーマが厳しい目つきをしている。
「それは、地球のある……」
「そうだ」
 そしてまた、空白のページが続く。
 途中、何ページかは破られて消失していた。
 フーマはさらにページを繰って行く。
「あ」
 再び文字が現れる。
 しかしフーマは、そのページを開くや否や閉じてしまった。
 そして、驚いたような目で暖野を見る。
「ねえ、どうしたの? そんなに怖い顔して」
「お前……」
 フーマがいきなり暖野を抱きしめる。
「ちょっと、何がどうしたのよ」
「俺は、お前を離さない」
「う……うん。分かったから。でも――」
「今度は、俺が守る。絶対に」
「ありがとう。でも、後でちゃんと説明して」
 あるはずのない風が通り過ぎた。


 風が流れた。
 夜だった。
 船室のデッキで、暖野は風に吹かれていた。
 また、戻っちゃった――
 右手の小指を見る。
 そこには、フーマの髪がしっかりと結ばれていた。
「ありがとう、カクラ君――」
 そして、夜空を見上げる。「フーマ」