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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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 医療班が、邪魔にならない程度に暖野にマナ補給を始める。そのうちの一人が、料理の皿をテーブルに置いた。見た目はオードブル盛り合わせのようだ。ゼリー寄せやサラダ、ミートローフなど、脂っこくなさそうなものが多い。暖野はその中で、ポトフに似た料理の皿を手に取った。少し、温かいものが欲しかったからだ。
「フーマ」
 暖野は言う。「喉、乾いた」
「ふむ。何がいい?」
「さっぱりしたもの」
 それに、案の定フーマは当惑したような表情をする。暖野は笑顔を見せて、付け加えた。「何でもいいよ」
 フーマが暖野の傍を離れる。元より、大して期待はしていない。ただ、彼が何を選んできてくれるのか、それを確かめたかっただけだった。
 しばらくしてフーマが戻って来た。
「ありがとう」
 暖野は彼の持って来てくれたグラスを受け取った。それは、桃のような甘みのあるソーダ水だった。
「これで、良かったのだろうか」
「うん。すっごく美味しい。ありがとう、フーマ」
 頼りなげに訊く彼に、暖野は微笑んで見せた。実際、これは望むべくもない至上のものだった。色々と頼りないところはあっても、きちんと自分を見てくれているということが、暖野は嬉しかった。それがどういうことなのか、どのように理解されているのかは分からなくとも。
「そうか。良かった」
 フーマが砕けた笑顔を見せる。
――これより、当学院の教職員による輪舞(ロンド)が披露されます。生徒諸君の参加は控えて下さい。
 放送が流れる。それを聞いて、キナタが目を輝かせた。
「キナタさん」
 暖野は声をかける。「ずっと、踊りたかったとか」
「ええ、ええ! もちろんです!」
 暖野は、クスリと笑う。この人らしいなと。
「行ってもらって、いいですよ」
「本当ですか!?」
「私は大丈夫ですから。ちゃんと食べますから」
 それを聞いて、キナタが喜びを全身で表した。そして、喜色満面ホールの真ん中へ走って行った。
「ひやぁっほーい! 私も混ぜてー!」
 暖野とフーマは顔を見合わせて笑った。
「キナタさん、面白いね」
「ああ。悪い奴ではないな」
「いい人ね。私も、あんな風に自由にやりたいな」
「出来るだろう?」
 フーマが言う。
「私は、あの人みたいにはなれない」
「それで、いいんじゃないか?」
「え?」
「お前は、お前らしくあればいい。安易に人を羨まずとも」
「うん……」
 暖野は頷く。「そうね」
 場内に、ざわめきが起こる。見ると、イリアンがホールの中ほどに歩いて行くのが見えた。
「院長先生も、踊るのかしら」
「そうみたいだな」
 落ち着いた雰囲気の曲が流れ出した。イリアンが同じく高齢の女性とペアを組んでいる。キナタは――
「えー?」
 意外な光景だった。彼女はあのいかにも怖そうな学寮部長とペアになっているからだ。しかも、とても嬉しそうに。
 それを見ても、暖野は自分自身と重ね合わせるようなことはしなかった。むしろ、幸せそうな二人を見て救われたような思いだった。
「暖野、見てみろ」
 フーマが低く言う。
「何を――」
 訊こうとして、その言葉を飲み込む。尋ねるまでもなかった。キナタと学寮部長、他の幾つかのペアの足元が煌めいている。彼らの足の動きが淡い光の軌跡を描いているのが分かったからだ。
「あれって――」
 暖野は別のことを言う。「私たちと……」
「あそこで起こったことと同じだろう」
 それは、愛し合う者同士のマナ放出だった。二つのマナが調和し、輝きのラインを引く。それがないペアは、ただこの場で組んでいるだけということになる。
「綺麗……」
 暖野はうっとりと、その光景を見つめ続けた。