小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

INDEX|106ページ/110ページ|

次のページ前のページ
 

8. それぞれの輝き


 生徒たちの踊りが一通り終わった後、音楽が一旦途切れた。その代わりに別の奏者が現れ、弦楽ソロが会場内に流れ出す。さすがに楽団員にも休憩が必要だからなのだろう。
「あれ? この曲――」
「ノンノ、知ってるの?」
 暖野が曲の聞こえてくる方を見るのに、リーウが訊く。
「うん。前に一度、聴いたことがある」
 それは、かつて沙里葉だか比浅縫(ピアサヌイ)で聴いたものだった。

――春にあこがれて ひたすらさまよい
  枯れ枝に足を 傷つけられても
  夢に春を 探し続けてる……

 つい口ずさんでしまう。
 いつの間にかピアノが加わり、他の楽器も合わさっている。
 駄目、今これを聴かされたら――
 フーマが、暖野をそっと引き寄せる。
「もう一度、踊るか?」
「ダメよ!」
 リーウが憤然として割って入る。「次は私がノンノと踊るんだから!」
 次の曲が始まる。踊りたい者達が集まり出す中、リーウが暖野の腕を引っ張った。
「その方が、いいかも知れない」
「ちょっと!」
「楽しんで来い」
 フーマの了承を得て、リーウが大喜びで暖野を連れてゆく。
「って――。リーウ、踊れるの?」
「私? まさか?」
 暖野の問いに、彼女は驚いたように言った。
「え? じゃあ、どうするのよ?」
「ノンノ、踊れるでしょ?」
「踊れないよ」
「何で? さっきはあんなに上手に……」
「リードしてもらってたからよ。決まってるじゃない」
 周囲では既にダンスが繰り広げられている。その中で立ち止まっている二人は、却って注目を集めてしまう。
「えーい! もう、やけくそよ!」
 リーウが見よう見まねで暖野の手を取る。だが、ステップが上手くかみ合わずに、道化芝居のようになってしまう。
 それに合わせるかのように曲調も陽気なものに変化する。それまでしっとりとした雰囲気で踊っていた者たちが気づかぬほどに自然に。
「これなら大丈夫かも」
 リーウが笑顔を見せる。「運動神経は悪い方じゃないからね」
「ま、待って。そんな――」
 これではまるで反復横跳びだと、暖野は幾らか自分から抑え気味にステップを踏んでみせる。リーウに任せていては身が持たない。
「上手いじゃない、ノンノ」
「リーウが無茶するからよ」
「じゃ、ついでに――」
 腕を上げる。「回りな!」
 フーマやアルティアとの時にやったように、暖野は軽やかに回転してみせる。何度かやっているので、自然に出来るようになっていた。
「もう一回!」
「――ってね、回るのは女役でしょ? なんでリーウが勝手に男役やってるのよ」
「ノンノの方が可愛いからじゃん」
「リーウだって」
「そう? お世辞でも嬉しい」
「お世辞じゃないよ」
「なんか、変な感じ」
 女同士のペアは他にもある。皆楽しそうに踊っている。周りから見たら、自分達もそのように見えているのだろうかと、暖野は思う。
「ほら、ぼうっとしてないで!」
 リーウが暖野を突き放す。腕が伸び切ったところで引き戻され、彼女の腕の中に抱きとめられた。図らずも頭に血が上り、暖野は頬を赤らめた。
「ホント、ノンノって可愛いね」
「リーウ?」
「ん?」
「もしかして――」
「さあ、どうなんでしょう!」
 リーウが腕をかざす。回れという合図だ。だが、暖野は高く挙げられた手のひらを裏返してリードを奪った。
「リーウの番」
 不意の返しにリーウが体勢を崩す。それを暖野は腕を回して抱き留める。「どう?」
「どうって――」
「もう、巻き込まれてたまるもんですか」
 暖野が主導権を握り、リーウを巻き込む。アルティアが言ったように。
 リーウが笑い声をあげる。
「あんた、ホントに強いね」
「私が?」
「そうよ。愛されてると、そんなに強くなれるもんなんだ」
「馬鹿にしてるでしょ?」
「ううん、してない。ノンノは強いよ」
 音楽がテンポはそのままに、雰囲気を変える。
「私、強くなんかない」
「そういうとこ、好き」
「ふざけてると、転ばすわよ」
「出来る?」
 リーウが不敵に笑う。
 楽曲がアップテンポに変わる。
 リズムに合わせて暖野はリーウの足元にステップを割り込ませる。
 リーウも負けじと暖野に対抗して先を読もうとする。
 互いのステップが煽るような曲に合わせて競合する。
 もはやこれはワルツではない、サルサのようだと暖野は思う。
 踊っているメンバーも交代し、舞台全体の空気が変わる。
 二人は笑いながら、ステップを絡み合わせる。もう、これはゲームだ。
「やるじゃん」
「リーウこそ」
 視線だけで間合いを取る。
 転びそうになり、腕を引き合い、ぶつかりそうになる。陽気な音楽に周りが巻き込まれてゆく。
 不意に頭上からスポットライトが浴びせられた。
 何? この演出――?
 だが、それはライトではなかった。あまりにも激しく動いているため、暖野のマナが底をつかないようにと補給設備が働いているのだった。
 最後に両手を繋いで互いに回転する。曲が終わると同時に二人は片手を放して、もう一方を高く挙げた。
 踊っていた他の者たちもそれに倣い、見物していた人たちにお辞儀をする。
 満場の拍手が耳をつんざき、続いて始まった静かな音楽をかき消した。
「あー。疲れたぁ」
 リーウが肩で息をしている。暖野とて、額に汗を浮かべていた。
「ホント、強引なんだから」
 暖野は笑う。
「だって、仕方ないじゃない。どうやったらいいのか分からなかったんだし」
「でも――」
 くすくす笑いが止まらない。「ありがとう。楽しかった」
「私も。ノンノの本気を見せてもらった」
 二人は手を取り合いながら、フーマ達の待つ方へと退却した。
「無謀過ぎるぞ」
 フーマが、二人を睨む。暖野はそれに、肩を竦めて舌を出した。
「ノンノのそういう仕草、可愛くてたまらない。もう、ぎゅっとしちゃう!」
 リーウがいきなり暖野を抱き締めてきた。
「もう! やめてよ! く……苦しい……」
 キナタが無理矢理リーウを引き離しにかかる。
「ごめん、ノンノ。でもね――」
 リーウが暖野を見つめる。「大好きだよ」
 そして、頬にキスをされた。唇にギリギリ触れるか触れないかという微妙な位置に。
 暖野が呆然としているうちに、リーウは人混みに紛れてどこかへ行ってしまった。
「あの子ったら……」
 キナタが腰に手を当てて、それを見送った。
「暖野」
「え? ああ、うん」
 フーマに声をかけられて、暖野は我に返る。
「少し、休んだ方がいいだろう」
「そうですよ。あれだけ激しい運動をしたのですし」
 キナタが腰掛けを用意して、そこに座るよう促す。ドレスでは背もたれ付きの椅子に座るのも容易ではない。だから、ただの丸椅子のような質素な木の腰掛けになってしまう。
「すみません」
「マナは――」
「大丈夫……だと思います」
 暖野は答えた。
「念のためということも、ありますからね。それと、もう少し食べた方が……」