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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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7. 寄り添う花


 料理の並べられたテーブルの周囲は、すでに生徒達でいっぱいだった。その中に立ち入るのを躊躇する暖野を置いて、リーウが強引に割り込んで行く。少しの隙も無いように見えるのに、いとも簡単に人混みに隠れてしまうその要領の良さに、暖野は感心した。
「さすがね、タカナシさん」
 声のする方を振り返ると、落ち着いた深緑のドレスに身を包んだアルティアが立っていた。
「アルティアさん」
「タカナシさん、とってもお似合いよ」
「アルティアさんこそ」
 彼女に較べたら自分などお仕着せにしか見えない。あまりにも様になっていて、怖気づいてしまいそうになる暖野にアルティアが微笑んだ。
「あなたらしい色、あなたらしい美しさ。最後の最後まで、私はあなたには敵わない」
「そんなことないです。アルティアさんこそ、大人っぽくて羨ましいです」
 決して謙遜ではなく、暖野は心からそう言った。
「そうかしら? 無理やりっぽく見えるけど。私としては――」
 ああそうかと、暖野は思い出す。色調はともかく、ここではロリータっぽい服装が流行りなのだと。
「むしろ、こっちの方が似合ってますよ」
「そう? じゃあ、次からは大人路線で行こうかしら?」
 敢えて口にこそ出さなかったが、それがいいに違いないと暖野は思った。彼女にロリ服はあまりに不似合いだ。
「お待たせ!」
 思ってもみなかった方向から声がして、暖野は驚いて振り向いた。
「じゃ、私はこれで」
 アルティアがリーウの姿を見て、暖野の前から離れた。
 リーウはどこをどうやってか、突入した場所からは予測もつかない位置に立っている。しかも両手には料理が盛られた皿を持って。
「リーウったら、どうやって……」
「そんなこと、どうでもいい」
 そう言いながら、皿を突き出してくる。「早く取ってよ。これじゃ、食べられないじゃない」
 なるほどと思い、暖野は皿を受け取る。それぞれの皿には違う種類のものが載っているが、どうも肉料理が多いようだ。よほど彼女はお腹が空いていたのだろう。
「まだまだ色んなのがあるからね。じゃんじゃん食べよう!」
「あのね、昼に言われたこと、忘れたの?」
 早速フライドチキンにかぶりついているリーウに、暖野は言った。
「あんなの、脅しに決まってるじゃない」
 口を動かしながら、リーウが言う。ドレス姿でそれは幾らなんでも、はしたないだろうと、暖野は苦笑しながら小ぶりなオードブルをつまんだ。
「どこか、座れる所ってないのかしら」
「向こうの方にあるけどね、全部席は埋まってた」
「そうなの……」
「まあ、いいじゃない。テーブルの近くにいた方が」
 チキンを食べ終えて、リーウが指を舐める。放っておくと、ドレスで手を拭いたりしかねない。まあ、それはさすがにないと、暖野も分かってはいるのだが。
 そう言えば、今日は本当にきちんと食べていないことに気づく。リーウが自分の皿を突き出してチキンを薦めたが、食べる気にはなれなかった。暖野は手が汚れるのは、あまり好きではない。持つところはラッピングされているとは言え、フライドチキンそのものが好物ではなかった。
 その代わりに花のようにアレンジされたハムをもらう。食べるのもいいが、何か飲み物が欲しいと思った時、新幹線の車内販売のようなカートを押している人が目に止まった。どうやら飲み物を配っているらしいが、もらうと両手が塞がってしまう。
「暖野、あれ」
 リーウに言われて見ると、少し離れたところでフーマが手招きしているのが分かった。
「私達に、来いって言ってるみたい」
「え? 私も?」
「うん。行ってみよう」
 自分も誘われたのを意外に感じているリーウを伴って、暖野はそちらへ向かった。
「どうしたの?」
「ああ、お前たちは知らないだろうと思って」
「何を?」
 暖野の問いに、フーマが壁の方を指す。
「隣の部屋に席が用意してある。誰もが賑やかなのを好むとも限らないからな」
「そうなの? でも私、ここにいる方がいいわ」
「じゃあ、こっちへ来い」
 フーマが料理の並べられたテーブルの方へ導く。その間にバックグラウンドで流れていた音楽の調子が変わった。ホール中に散開していた人たちが、脇の方へと退き、代わりにワルツに参加する者が進み出る。その中には、アルティアの姿もあった。
 最初からペアになっている者はいない、それぞれが独自に舞いながら、相手を誘い合っているようだ。
 暖野はそれを、春先の蝶を見ているような思いで眺めた。
 アルティアは優雅に、そしてしなやかに、決して華美さを感じさせることなく踊っている。いや、踊ると言うよりも、音楽のままに流れそよいでいると言った方が正しいだろう。
「さすがね……」
 リーウが目をすがめる。暖野はそれに、黙って頷いた。
 やがて自然にペアが生まれ、アルティアの周囲で輪舞が繰り広げられ始めた。だが、彼女自身はいつまでもペアを持たなかった。まるで女王蜂のように、中央で舞い続け、それに合わせて周囲が同調している。
 孤高に舞うアルティアを見ているうちに、暖野はいたたまれない気持ちになってくる。
「ちょっと、ノンノ」
 暖野は皿をフーマに預け、繰り広げられる舞のうちへ踏み込んでゆく。場を乱さないよう、ゆっくりと。そして、アルティアの手を取った。
「私で良ければ」
 アルティアは舞うのを止め、さほど驚いた風でもなく暖野を見た。
「もちろん」
「私、上手く踊れないですけど」
「いいのよ。ただ合わせてくれるだけで」
 さっきまでの煽情的な舞ではなく、優雅ではあっても落ち着いた揺らぎを暖野に伝えてくる。暖野はただそれに同調するだけで良かった。全て男女のペアの中で、アルティアと暖野だけが異彩を放っていた。それまで見守るだけだった人たちが、近くの者と自然にペアを作り、踊りに加わり始める。
 観衆を巻き込み、ホール中が緩やかな波に満たされてゆく。それにつれて音楽もたゆたうような、ゆったりとしたものへと変化していった。
「大したものだわ」
 アルティアが言う。
「どうしたんですか?」
「あなたのおかげで、みんながひとつになった」
「そんなの、関係ないです。私はただ――」
「本当に、お馬鹿さんね」
「何がです?」
 アルティアが暖野を突き放す。そして、一気に引き寄せた。
「あなた、みんなが隠し事をしてるって思ってるんでしょう?」
「それは――」
「態度を見てたら分かる。それに、聞こえるから」
「私、そんなに……」
「態度よ。タカナシさんは、いつもそう。自分で自分の実力を知ろうとしない」
「だって、私は何もしてないのに?」
「この場の雰囲気は、あなたが作ったのよ」
「私が?」
「そう。あなたが巻き込んだの。タカナシさんは、自分が巻き込まれてると思っているんでしょう? でも、違うのよ。本当はね――」
 アルティアが暖野の手を取ったまま腕を高く上げた。指先を軽く動かされただけで、暖野は意識することもなく回転した。
「あなたが巻き込んでるの。人によったら、それは脅威かも知れない。そして、あなた自身も脅威だと感じているんじゃないかしら」
「そんなこと、考えたこともないです」
「じゃあ、これから考えるようにして。それは脅威じゃない、恩恵だって」
「恩恵?」