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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 軒先に吊るされた草鞋(わらじ)、蓑、編み笠、行李に行灯(あんどん)……
 私、こんなのイメージしたっけ――
 一体いつの時代の道具屋なのか、このヨーロッパ風の街並みの中にあって、それは異様すぎる雰囲気を漂わせている。
 暖野は、それを無視することにした。
 着物姿に編み笠、草鞋履きで旅をしようと思うほど酔狂ではない。きっと何かの悪ふざけに違いないと彼女は思った。
 例の店は、やはり道具屋だった。
 ちょうど向かい辺りにある時代錯誤な道具屋ではなく、もっと真っ当な道具屋。登山用品のような使い易さはなさそうだが、一応は旅に必要なものは揃いそうだ。普通は店主がお薦めの品などを出してくれるのだろうが、ここでは全て自分で品定めしなければならない。
 必要なもののリストはすでに作成してある。二人は順番にそれらを集めていった。
 リュック、雨具、帽子、草履、ツェルト代わりにもなる布。カップや紐、何故か洗濯ばさみもあったので、それももらうことにする。さすがにトートバッグは無かったが、丈夫そうな袋があったので、それに必要なものを詰め込んだ。
 品揃えは概ね予想通りではあったが、中には明らかに雰囲気にそぐわないものも紛れ込んでいた。自撮り棒とか非常持出袋とか、工事現場の人が被るような安全第一と書かれた黄色いヘルメットまである。
 荷物が増えたので、二人は一旦宿へ戻ることにした。あとは、着替えの服などを調達するくらいだ。
 マルカの部屋に荷物を置くことになり、暖野は初めて彼の部屋に入った。暖野の部屋よりは狭いが、居心地が良さそうなのは変わらない。ただ、大荷物を置くには少々手狭に感じられた。
「私の部屋に置けばいいじゃない」
 彼女は言った。
 どうせ荷物の整理は二人でやるのだし、その方が理に適っている。それでも彼は“ノンノの部屋は物置ではありませんから”と言って譲らなかった。
 結局暖野は、自分用のリュックだけを自室に置くことになったのだった。
 軽く昼食を済ませ、再度街に繰り出す。
 メニューは、パスタだった。軽く食べてと思ったから、そうなったのだろう。
 昼からは、主に着替えを探すことに専念した。
 暖野とて女の子である。そんなにファッションにはこだわりがない方とは言っても、やはり可愛い服などを見ると楽しくなる。しかし旅装束となると、なかなかそれに相応しいものを見つけるのは難しかった。
 普通にチノパンとスニーカー、Tシャツでも良さそうなものだが、それではどうにも味気ない気がする。
 マルカも一緒に探してくれるのだが、どうも的外れというか――
「ノンノ、これなんかどうです?」
 店の中で、マルカが言った。「お似合いだと思いますが」
「あのねぇ……」
 彼が手にしているものを見て、暖野は額を抑えた。「あなたって、そんなのが好みなわけ?」
 いくら何でも、それはなさすぎる――
「好みというか、ノンノにぴったりだと――」
「あのね。どこの世界に、メイド服で旅する冒険者がいるのよ!」
 そう、彼が見せたのは、ひらひらのフリルエプロンのついたメイド服だった。それに、マルカの服装も見ようによっては執事っぽいが故に、余計に怪しい雰囲気になる。
 って言うか――
 改めて店内も見回してみる。
「ここには、まともな服はないのかしら」
 確かに可愛い服はある。しかし、その品揃えが明らかにおかしい。
 まるで映画やアニメにでも出て来そうなものばかりなのだ。魔女っ子の衣装やお姫様のドレス、なぜか絣(かすり)の着物まである。動き易そうなものと言えば、やたら露出度の高い女戦士風のコスチュームしかない。入る店を間違えたのではなく、あちこち歩き回った末にここしかきちんとした服屋はなかったのだ。
 冒険者だとか魔法だとか考えていたのがマズかったのかな――
 暖野は奥の方へと進んでみた。
 あった。一応はまともな服が。
 だがそれは、彼女の学校の制服だった。指定ジャージもある。
 選択の余地はなさそうだった。暖野は制服を手に取ったのだった。