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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 マルカの話を聞いていると、それは笛奈の少女のようなものではなさそうだ。何かしら悪意に似たものの介在を感じさえする。
 マルカは何か役に立ちそうなものがないか探しに、また町へと行っていた。
 先ほどと同じ理由で、暖野にはここで待っているようにと言い置いて。そして、もし電車が来たら引き止めておいてほしいとも。
 引き止めるも何も、乗らなきゃ動かないだろうし、そもそももう来ることはないだろうに――
 そうは思ってみたものの、暖野は口には出さなかった。
 一人の待合室で、暖野は様々に想いを巡らしていた。
 今日一日だけでも、普段の数倍以上の経験はしていた。もっとも、ここでの経験など日常生活とは比較出来るようなものではないのだが。
 あれは、何だったんだろう――
 笛奈での出来事を思い返してみる。
 聖堂跡で見たもの、その意味するところは何なのか。無限に広がるヴィジョン全ての中で、誰かが必死に助けを求めていた。
 声を限りに叫んでいるようでもあり、聞き取れないほどにまで掠(かす)れてしまった慟哭とも感じられた。それに、あの声は言っていなかったか、“私は、ここにいる”と。
 こことは何処なのか。笛奈の、あの城跡か。あるいは沙里葉なのか。
 そうではない、と暖野は思った。
 それは恐らく、どこでもないような気がした。
 天井の照明には、それに寄って来る虫の姿すらない。
 暇だな――
 考えるのにも疲れてくると、退屈になってくる。さりとて、特にすることもない。
 暖野は鞄から携帯を取り出す。
 そうだ――
 バッテリーが切れそうだったのを思い出す。充電しないと――
 室内を見回す。電気が来ているのだから、きっとあるはずだと。
 それは、ベンチの下にあった。見慣れたタイプのコンセントが。
 彼女はそこに充電器を差し込み、携帯の電源をONにした。
 それでも、することがないのには変わりがない。宏美に電話出来るわけではないし、メッセージのやりとりも出来ない。せいぜい昨日までの記録を見返すくらいだった。ネットが繋がっていないのでゲームも出来ない。これでも一応は圏内なのが不思議だった。
 マルカが戻って来る。
 大きめの中華鍋のようなものを手にしていた。それで湯を沸かそうと言うのだった。
 さすがに屋内で火を焚くわけにもいかない。
 沸騰した鍋を室内に持ち込んで暖を取りながら、ささやかな食事を済ますと、二人は翌日のことについて確認し合った。
 とにかく、一度沙里葉に戻ろう、と。