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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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「ええ。ここには何かがあるのかしら?」
「とりあえず、行ってみますか」
 マルカに続いて、彼女は駅舎内へ入った。
 改札口などない。引き戸が内外を仕切っているだけだった。
 切符売り場もなく、待合室が建物の全てを占めている。壁に沿って木のベンチが巡り、天井には幾らか大きめの照明が一つ点っているだけだった。
 外に出てみると、沙里葉のターミナル駅とは比べものにならないほど小ぢんまりとしたロータリーの向こうには、何もなかった。
 終点にしては、これほどおかしなこともない。どんなに小さな駅であっても、その前には家か何かがあるものと思っていた彼女は、それこそ何かに化かされているのではないかと疑った。
「何も……ないわね」
 見たままのことを、暖野は言う。
「そうですね」
 マルカも、それだけしか言わない。
「家が一軒もないのは、どうしてなのかしら」
 駅前には街灯がいくつかあるが、それらが照らし出すものは森だけだった。ただ、駅から正面に伸びる道が一本だけあった。
「ちょっと見て来ましょうか」
 マルカが言う。「沙里葉みたいに、明かりが点いていないだけかも知れませんよ」
 そうなのかも知れない。だが、道の先にも灯りらしきものは無さそうだ。
「じゃあ、ちょっと待っていてください。すぐに戻りますから」
「え? ちょっと、私も――」
 歩きかけるマルカの後を追う。
「暗いですから、ノンノはここにいてください」
 そう言い残して、マルカは暗がりの道の先へ消えて行った。
 彼の言う通り、道には灯りもない。マルカは夜目が利くのか、その足取りに不安定さなど感じさせなかった。