久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上
「ええ。ここには何かがあるのかしら?」
「とりあえず、行ってみますか」
マルカに続いて、彼女は駅舎内へ入った。
改札口などない。引き戸が内外を仕切っているだけだった。
切符売り場もなく、待合室が建物の全てを占めている。壁に沿って木のベンチが巡り、天井には幾らか大きめの照明が一つ点っているだけだった。
外に出てみると、沙里葉のターミナル駅とは比べものにならないほど小ぢんまりとしたロータリーの向こうには、何もなかった。
終点にしては、これほどおかしなこともない。どんなに小さな駅であっても、その前には家か何かがあるものと思っていた彼女は、それこそ何かに化かされているのではないかと疑った。
「何も……ないわね」
見たままのことを、暖野は言う。
「そうですね」
マルカも、それだけしか言わない。
「家が一軒もないのは、どうしてなのかしら」
駅前には街灯がいくつかあるが、それらが照らし出すものは森だけだった。ただ、駅から正面に伸びる道が一本だけあった。
「ちょっと見て来ましょうか」
マルカが言う。「沙里葉みたいに、明かりが点いていないだけかも知れませんよ」
そうなのかも知れない。だが、道の先にも灯りらしきものは無さそうだ。
「じゃあ、ちょっと待っていてください。すぐに戻りますから」
「え? ちょっと、私も――」
歩きかけるマルカの後を追う。
「暗いですから、ノンノはここにいてください」
そう言い残して、マルカは暗がりの道の先へ消えて行った。
彼の言う通り、道には灯りもない。マルカは夜目が利くのか、その足取りに不安定さなど感じさせなかった。
作品名:久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上 作家名:泉絵師 遙夏