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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 暖野はいったん持ち上げた包みを、静かに机に置いた。包装紙を破らないように、ゆっくりとテープをはがす。これも暖野の子供のときからの癖である。紙を破くともったいないような気がするからだ。それと、何か特別なものを買ったときの包み紙を取っておくというのも。
 解いた包装紙を脇へよけると、暖野はボール紙でできた箱を開けた。時計はさらにクッション代わりの古新聞の中、布にくるまれて入っている。暖野は布ごと時計を取り出し、手のひらの上でそれを解いた。
 上蓋を開けてみる。
 針はやはり、5時25分を指したままだ。
 明日にでも親戚の時計屋に預けて直してもらおうと、暖野は考えてみた。それと、この時計に合った鎖なんかがあれば言うことないんだけど……と。
 もちろん、そんなお金など今はない。小遣い前のなけなしの金をはたいてしまったからだ。
 暖野は時計を裏返してみた。
 これは、何で出来ているんだろう――。
 見たところは金のようだった。だが、まさか金の時計が3500円で買えるわけもない。ルクソールのマスターなら知っているかも知れない。アンティークショップなどやっているくらいだから、素材にもある程度の知識があるだろう。そうでなければ外国に買い付けになど行けるはずもない。
 黄銅だろうな、やっぱり……。
 暖野は思った。
 昔の金属製品には、色が金に似ていることから、黄銅がよく用いられていたりする。
 でも――。
 やはり、黄銅と金では放つ輝きが違う。これは、どう見ても金のようだった。
「まさか、ね……」
 わざと口に出して呟いてみる。
 そう、金であるはずがない。
 時計は彼女のそんな思いなどお構いなしに上品な光を反射していた。
 どれくらいの時間、ぼんやりと時計を眺めていただろう、不意にドアがノックされて意識が引き戻される。
 思わず暖野は時計を引き出しにしまう。だが、それまでだった。
 ノックなどほとんど意味を成さないうちに、ドアが押し開けられたからだ。
「姉貴」
 最初のノックから一秒も経たぬ間に、弟が半身を乗り入れてくる。「メシ」
 弟の修司は、必要最小限のことを口にした。
「ちょっと」
 暖野は苛立たしげに言った。「いきなり開けないでよ」
「ちゃんとノックしたぜ」
「かたちだけね」
「それ、プレゼントか?」
 修司は机の上のものを見て言った。
 そこには拡げられた包装紙と箱が置かれたままだった。
「ま……まあね」
「男かよ」
 暖野はどう返事していいものやら分からず、黙って修司を見返した。素直に自分で買ったのだと言えばいいようなものだが、もしそう言ったとしたなら修司は何を買ったのかと追求するに決まっていた。そして最後はいつもの決まり文句、「趣味悪いぜ、まったく」で終わるのである。
「物好きもいたもんだな」
 暖野の沈黙を肯定と取ったのか、修司は言った。
「う……うるさいわね。もう! 放っといてよ!」
「どうでもいいけどさ、ちょっと趣味が悪いんじゃないか、そいつは……?」
「出てけ! このっ!」
 暖野はクッションを投げつけた。だが修司が素早くドアを閉めたため、それはドアに叩きつけられて絨毯の上に転がっただけだった。
 閉じたドアに向かって暖野は思いきり舌を出した。
 修司は中学一年生。まさに生意気盛りだ。
 暖野は引き出しから時計を出し、慌てて片付けたときに傷でもつけていないか確認してから、もう一度丁寧にしまい直した。
 それから机の上を整理し、空になった箱をクローゼットに入れると、一息ついて夕食のために部屋を出た。
『ホントに、だれかいい人から貰ったんなら、どんなにか嬉しかっただろう……』
 そんな思いが胸をよぎり、暖野は切なくなった。