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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 自分が時計の本来の持ち主だと宣言されたようなものではないか、と。
「それじゃ、私ははじめからここに来ることになっていたんですか?」
 暖野が訊く。理不尽に対する憤りが声音に自然と出てしまう。
 しかし、アゲハと名乗った男は落ち着いた声で言った。
「最初からではない――おそらく……。私もそう信じたい」
「意味、わからないんですけど……」
 暖野は言う。そしてマルカの方へ視線を投げて続ける。「彼も、中途半端なことしか話してくれません。そもそも私がどうしてここにいるのか、何のためにいるのか教えてもらえませんか? 私、ほんとに何も知らないし分からない……」
 話しているうちに涙声になる。「いきなりこんなところに連れてこられて、私……どうしたらいいのか……」
 ここに来たら答えが得られるようなことをマルカが言っていたにもかかわらず、ここで会った当の人物ですら核心を得られないような話しぶりであることに絶望感が溢れてきた。
 マルカが暖野の肩に手を置く。アゲハは黙って二人を見つめていた。
 二人は暖野が落ち着くのを辛抱強く待っているようだった。昂った感情を鎮めるには、時として沈黙しかない。
 肩に触れる手の感触で、暖野は我に返った。まるで励ますかのように指先で軽く叩いている感触。
 大丈夫、自分がいるからと、言葉を用いず励まされている暖かいリズム。
 暖野は顔を上げた。
 少し大きめに息を吸い、呼吸を整える。
「これは――」
 ポケットから時計を取り出す。「鍵だと……」
「そう、この世界を存続させるための鍵」
 アゲハが静かに言う。「鍵は、その主(あるじ)にしか所有は許されないものだ。それは分かると思う」
 それは確かにそうだ。鍵は自分の所有物のためにある。
 でも――
「この世界を存在させるためにって、仰いましたよね?」
 確かにアゲハはそう言った。
「私は――」
 暖野は言葉を切った。違う、そうじゃない。いや――聞きたくない。でも、黙ったままじゃ……
 暖野はかぶりを振った。
「この世界を存続させるためって……」
 そう、それも気にかかることだった。「ここはきちんと存在しているじゃないですか」
「確かに」
 アゲハが言う。「ここは存在している。少なくとも、今は。だが、時が動き始めた以上、そう長くは存在してはいられないだろう」
「この時計が、動き始めたから、ということですか?」
「それもある。しかしそれは些細なことでしかない。たとえ時が動き出さずとも、この世界は凍結された時空の中で朽ち果ててゆくしかなかったのだから」
「じゃあ――」
 暖野は言った「いずれにしても、ここは消えてなくなると……。そして――それは私のせいだと……?」
 自分が鍵を持っている以上、私に責任を取れということなのかしら――
 出かかった言葉を、さすがにそれだけは飲み込んだ。口調がどうしても喧嘩腰になってしまいそうだったからだ。
「君のせいではない。それに、時計が動き出したのも、ここがもう消滅の秒読み段階に入ってしまったことも、もちろん君には何の責任もない」
「なら、どうして――?」
 言いつのる暖野を、アゲハが制する。
「君にしか出来ないからだ。他の誰でもない、君にしか」
「あなたは、何か勘違いしてますよ。私は救世主なんかじゃありません」
 ファンタジーの類も彼女はよく読むし、好きな方だ。だが、そういうことはあくまでも“お話”だから面白いのだ。
「そうだとも。君は救世主じゃない」
 そして、アゲハの次の言葉が、彼女をさらに混乱させた。「なぜなら、君が救うのは、ある意味では君自身なのだから」
「……?」
 暖野は、彼が何を言っているのか理解できなかった。
 私が、自分自身を救う――?
 どうして、そんなことをしなければいけないの――?
 私は、ここから抜け出すことができさえすれば、何も言うことはないのに――