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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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5. 寮へ


 何? この匂い――
 覚えはあるけど、馴染みのないこの匂い……
 暖野は薄目を開けた。
 目に入ったのは薄いピンクだった。
 揺れている。
 あ……
「保健……室?」
 暖野は身を起こす。
 そうか、休み時間に、フーマが帰ってしまったことを聞かされて、それで――
 ということは、結局戻れなかったんだ――
 カーテンが引き開けられる。
「気がついたようね」
 眼鏡の女性が言った。「気分はどう?」
「あ、はい。大丈夫です」
 女性は後方を向くと、頷いて合図した。
「ノンノ! もう!」
 リーウが駆け寄ってくる。
「あ、リーウ。私、また……」
「心配し過ぎなのよ、あんたは」
「ごめん」
「で、もう大丈夫なの?」
「うん。ありがと」
 見ると、その後ろに古典魔術の教師がバツの悪そうな表情で立っている。
「先生、どうしてここに?」
「ええ……」
 教師は暖野の傍まで来る。「さっきは、ごめんなさいね。あなたの体調が悪かったなんて知らなかったから」
「いえ、いいんです。ぼぅっとしてたのは私が悪いんです」
「今日が初めての授業なのに、もっと気を遣うべきだった」
「先生、頭を上げてください」
 頭を下げる教師に、暖野は却って恐縮してしまう。
「レポートの話はもういいから、ゆっくり休みなさいね」
「いえ、それは是非書かせてください」
「あなたがそう言うなら、それはいいけど」
「私、もっと色々勉強したいんです」
「分かったわ」
 教師は溜息をついた。「教科書の38ページから41ページまでを読んで、用紙3枚にまとめること。これでいい?」
「はい。でも――」
「タカナシさんは通いなのね。大丈夫。期限は無しということで」
「はい、有難うございます」
「じゃあ、私は戻りますね」
 教師は言った。そして保健の先生に向き直る。「では、後は宜しくお願いします」
「ノンノったら、せっかくいいって言ってくれてるのに」
 教師が去ってから、リーウが言う。レポートのことだ。
「でも、せっかくの授業だし、教科書はここでしか見られないから」
「通いって、色々不便なのね。予習も復習も出来ないし」
 リーウが言う。「私は、したことないけど」
 まあ、テストが無ければ必死に予習復習しなくてもいいのだろうと、暖野は思った。ただ、リーウの場合はそうではなさそうだ。
「今は、もう放課後なのよね?」
 暖野は訊く。
 リーウがここにいるということは、そうに違いない。まさか、授業をサボって看病してくれていた訳でもあるまい。
「そうよ」
「どうしよう……」
 暖野は焦った。「私、戻れなかったら……」
「心配しないで」
「でも」
「学寮部に話してあげる。通いの者は大事にされるから、寮にもすぐ入れるよ」
「うん……」
「そう、しょげなくてもいいじゃない。何なら、私の部屋に来なさいよ」
「なんかリーウ、楽しそうね」
「そんな風に見える?」
「見える」
 リーウが笑う。
「じゃ、行こうか。立てるでしょ?」
「大丈夫よ」
 リーウが手を差し出すのを断って、暖野はベッドから降りた。
 あれ――?
 思わずよろめいて、ベッドに手をつく。
「ほら。意地張ってないで」
 仕方なく、暖野はその手を取った。
 保健の先生に礼を述べ、保健室を後にする。
「行くって、どこへ?」
「学寮部。さっき言ったでしょ?」
「今日、泊めてもらうって?」
「そうよ」
「いきなり言って、大丈夫なの?」
「案ずるより産むが易しよ」
 前にも来たことのある学寮部に着く。
 扉を開けて窓口前に並んで立つ。。
 リーウがベルを押すと、奥から係の男性が姿を現した。
「何か、用ですか?」
 男性が訊く。
「はい。私はヘルメス学級のリウェルテ・マーリ。ここの通いの者、ノンノ・タカナシが帰還出来ずにおります。つきましては、この者の入寮許可及び元時空へ戻るまでの滞在許可をお願い致します」
 リーウがこれまでになく畏まった口調で、声を張り上げる。
「では、この用紙に記入し、許可申請者の署名を」
 係員が書類を窓口に差し出す。
「ここと、ここ」
 リーウが説明してくれる。
 記入事項は氏名、年齢、学級名そしてサインだけだった。もっと詳細を問われるかと緊張していた暖野は拍子抜けした。
 元世界とか問われても、元々が日本で、その次が何と書けばよいのか分からない。沙里葉も笛奈も世界の名ではないからだ。
 リーウが最後に保証人欄にサインして、係員に手渡す。
「部屋の希望は?」
「相部屋で」
 質問に、リーウがすかさず答える。
「ちょっと!」
 暖野が彼女の裾を引っ張る。
「いいの、黙ってて」
「リウェルテ・マーリ。君の部屋は、独り部屋ですね」
「はい。ですので、彼女の部屋に私が」
「それは、相部屋ではなく、ノンノ・タカナシに二人部屋をあてがうということですね」
「はい。彼女は今日初めて受講したのですが、帰還方法を一時的に喪失したようなのです。なにぶん不案内なこともあり、寮生が付き添うのが妥当と思われます」
「ふむ」
 係員が狭い窓口から二人を見る。
 二人とも、直立不動の姿勢を取った。
「よろしいでしょう。では、寮の方へは伝えておきます。詳しくは寮監に訊いてください」
「分かりました。有難うございます!」
 リーウが最敬礼をするのを見て、暖野もそれに倣った。
 最後に一礼して学寮部を辞する。
 扉を閉めてから、暖野は大きく息をついた。
「緊張したぁ!」
「面白かったでしょ?」
 リーウが言う。
「面白いって、いきなり大声だすからびっくりしたわよ」
「あれが、ここのやり方。禅問答みたいでしょ?」
「禅問答って……」
 それは、ちょっと違うような気がする――
 むしろ、武士が決闘申し込むみたいな――
「これで、今夜は安泰ね」
「でも、相部屋って。リーウ、自分の部屋があるのにどうして?」
「そんなの、決まってるじゃない。語り明かすのよ」
 いや、楽しそうだけど、それはちょっと面倒かも――
 リーウのことだ、寝かせてくれないかも知れない。
「でもね。もし私が急に帰れたとしたら問題なんじゃ……」
「さっき申告したでしょ、帰還出来るようになるまで無期限って」
「じゃあ、またいつの間にかいなくなっても大丈夫なのね? リーウが怒られるとかないのね?」
「馬鹿ね」
 リーウが暖野の頭をはたく。「私のことなんかより、自分のこと考えなよ」
「ごめん。ホントに有難う」
「じゃ、行くわよ」
 二人は校舎を出た。
 寮は、正門とは反対の裏手ということだが、リーウは暖野を一旦正門まで案内し、門外に見えるものについて説明した。
「あれが大風車」
 リーウが指さす。「ここの電気の大半を賄ってる。中くらいのはいっぱいあるけど、大風車は風がない時でもマナで回して小風車に風を送ってる」
 正門から続く道の先、ひときわ高い丘の上に大きな風車が見える。
「随分と回りくどいことしてるように感じるけど」
 暖野は言った。それなら、最初からマナで発電すればいいのに、と。
「マナはエネルギー・ロスがないから、その方がより多くの電力が得られるのよ」
「それなら、なおさら」
「大風車を回すのにマナ値10だとして、そこから得られるエネルギーが20とか30でも?」