久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上
「そっか、そっか」
リーウが何度も頷く。「それで、声をかけるタイミングを窺ってたってわけね」
「ちょっと、何か思いっきり勘違いしてるみたいなんだけど」
「いいのよ。勘違いも……ね」
いや、本当に違うんだってば――
意味ありげにウィンクしてみせるリーウを軽く睨む。
「もう、いいわ」
暖野は席を立つ。
その途端に鐘が鳴った。
「え?」
授業って、6時限までじゃないの――?
「古典魔術の時間よ」
リーウが言う。
「ここって、何時限まであるの?」
「8時間目まで」
「ホントに!?」
暖野は目を丸くした。幾ら魔法とかそういうのが好きでも、8時間も学校で授業を受けるのは疲れる。もっとも暖野は今日は3時限目からしか来ていないのだが。
これまで気にも留めなかったが、ここでの一日は何時間なのだろうと、暖野は思った。
教師が入ってくる。女性教師だった。
ああ、結局聞きそびれた――
号令に合わせて立ち上がりながら、暖野は溜息をついた。
授業中、フーマがいなくなっていないかと気が気でなかった。彼の席は暖野より後ろのため、振り返ってその存在を確かめることも出来ない。
次の休み時間には、何があっても絶対に訊くと、暖野は心に決めていた。
ずっとフーマの存在ばかりが気になる。そうではないと分かってはいても、理不尽なほどに緊張だけが高まる。
肩を叩かれて、意識が引き戻される。
「呼ばれてるよ」
後ろの席の子が囁く。
「タカナシさん」
先生が言う。どうも指名されているようだ。「次のところ、読んでくれますか?」
「えーと……」
暖野は教科書に目を落とす。全く聞いていなかったので、次のところがどこなのかも分からない。「済みません。聞いてませんでした」
「しっかりしなさいね。古典だからと侮ってはいけませんよ」
「はい……」
「じゃあ、代わりに――」
教師は他の生徒を指す。
考えてもしようがないか――
暖野は教師が言ったページを開いた。
受けたかった授業に出られたんだし、ちゃんと勉強しないと――
終業の鐘が鳴る。
すぐにでもフーマの所に行こうと考えている所へ、教師に呼び出された。
「タカナシさん。今日の授業の所、次までにレポートを書いておきなさい」
「はい……」
「古典魔術は統合科学の基礎理念の一つで、大切な分野です。古いだけあって非常に強い力を秘めているので、操作倫理の一翼も担っています。あなた自身が怪我しないためにも、しっかりしなさいね」
「はい。どうもすみませんでした」
暖野は頭を下げた。
「怒られちゃったね」
教師が去ってから、リーウが声をかけてくる。
「うん……」
力なく、暖野は答える。でも、それどころじゃない。フーマは――「あれ?」
「あいつ、帰ったみたい」
リーウが言う。
ちょっと……それはないでしょ……――
暖野はその場にへたり込んだ。
この悶々とした思いを抱え続けなければならないのか。自分が元の世界に戻るか、或いは次にフーマが現れるまで。
確か、授業はあと一つ残っている。
気の遠くなる思いだった。
実際に気が――
「ちょっと! ちょっと――…… ノン……」
リーウの姿が霞む。
これで、戻れるのかな――
作品名:久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上 作家名:泉絵師 遙夏