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ひょっとこの面

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07.違和



 島から戻り、宿泊先で私は考え込んでいた。

 新山の実家という唯一の当てが、外れてしまった上に、新山と実家との関係が思いの外悪く、話を聴くことすらかなわなかったのだ。これでは、明日以降どう捜索の手を広げていいかわからない。民家で新山の面に似たダンボールの面を入手したときは何かの糸口になるかと思ったが、こちらもこれだけでは如何ともし難い……。
 悩みながら手帳を開き、今後のスケジュールを確認する。数日後、姉が所用で私の家に来ることが書かれている。これが無ければこちらでの滞在期間を延ばせるのだが……。
 自分に良く似た姉の顔を頭に思い描きながら、再び考え込む。いったい新山はどこにいるんだろうか。考え込んでいたそのとき、ふと閃いたものがあった。
 新山には兄弟姉妹はいるだろうか。駆け落ちをして実家に帰りづらい立場でも、仲の良い兄弟姉妹なら連絡している可能性はあるのではないか。私は早速束彩の部屋に行き、新山に兄弟や姉妹はいないか尋ねてみた。
「……そういえば、兄が一人いると言っていたような。でも、このK県で商売をしているという以上のことはわかりません」
 それだけわかれば十分だ。まず、商売をしているということは恐らく固定電話を引いているはず。私はフロントで電話帳を借り受け、新山という苗字を抜き出していく。その件数16件。
「この程度なら1件ずつ連絡を取れるだろう。もう夜なのでこれからやるわけにはいかないが」
確実ではないとはいえ、とりあえず明日の目処がついた。安心してソファに体を預ける私に、束彩が声をかける。
「とりあえず、明日のことも決まったし。食事にでも行きましょうよ、道山さん」


 数時間後、私は酔いつぶれた束彩を抱きかかえ、再び束彩の部屋にいた。
「飲みすぎって言ったでしょう」
嗜めるが、束彩は微笑むだけ。私は半ば呆れ顔で彼女をベッドに寝かせ、傍らの小卓に水の入ったコップを置く。
「部屋、戻りますよ。大丈夫ですか?」
問いかけるが、返事はない。束彩の胸の膨らみが呼吸に合わせて上下している。スカートが乱れ、肉感的な太ももが露わになっている。
「部屋戻りますよ、明日ちゃんと起きてくださいね」
念を押すと、束彩は微笑をたたえたままむくりと起き上がり、するりと上下を脱いであっさり下着姿になった。

 私自身、心のどこかでこれはいわゆる「据え膳」という奴ではないか、という考えがないわけではなかった。だが、この女(ひと)は、私が今最も必要としている男の妻なのだ。まだ初対面も果たしていない立場で妻を寝取るなど、どうしてできようか(対面を果たしていても駄目だが)。それに、束彩も長い間の孤閨で少し寂しいだけなのだ。それに……。
 色々なことが頭に駆け巡るが、考えはまとまらない。そうこうしているうちに、束彩は笑顔のまま私の下半身を露わにし、混乱する頭とはうらはらに硬く屹立しきっているものを愛おしそうに握りこんで、頬張った。


 後ろめたい悦楽を終え、満足気な吐息をついて横たわる束彩に、私は問いかけた。
「……こんなこと、良かったんですかね?」
抱いた立場で言えることではないが、それでも聞かずにはいられなかった。
「んふふ、すごく良かったですよ」
いつもの微笑で返ってきた意外すぎる答えを聞いて、私は束彩という女に初めて違和感を覚えた。


作品名:ひょっとこの面 作家名:六色塔