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ひょっとこの面

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06.郷里



 新山の家を訪れてから約一週間後。

 仕事を何とか強行軍でまとめ、私は束彩とK県に降り立っていた。
「丈吉さんの郷里は、ここから時間がかかるのですか」
「ええ。S島という離島で、日に数便ほどフェリーが出ていたかと」
束彩は時刻表を開き、フェリーの時間を確認する。
「次は2時間後ぐらいですよ」
そう言って優しく微笑む。新山宅で初めて会ったときから、彼女のいろんな表情を見てきた。その数多の表情の中で、この微笑が彼女のもっとも印象に残る表情だった。
「丈吉さんの実家は、ご存知ですよね」
束彩は頷くが、その仕草はどことなく頼りない。
「じゃ、時間まで派出所で実家の住所を確認してから、食事でもしましょうか」
 私達は、予定の通り住所確認と食事を済まし、フェリーに乗った。潮風に揺られること一時間弱で、私達は新山の生誕地へたどり着く。
 新山の生まれた島は、緑の多い人口千人弱の小さな島だった。島に降り立ってからわかったが、ここは東京や大阪からこの島へのパックツアーもあったり、土産物屋や食事処等も少ないなりに充実したりしていて、人探しでなくとも訪れたいと思うような隠れ家的観光地だった。

 私と束彩は港から新山の生家へと向かう。タクシーを使っても良かったのだが、徒歩でもそれほど時間がかからないことや、この島の自然にふれあいたいと思ったこともあって、歩いて向かうことにした。
 15分弱で、新山という表札がかかった目的の民家にたどり着く。そういえば、この家は束彩にとっては義理の実家のはずだ。ということは、束彩はこの家に電話等で、連絡を取ることができたのではないだろうか。
 このタイミングでこの点に気付いたのは、いささか遅すぎる気もするが、とりあえず束彩に正してみよう。そう思った瞬間、束彩が小声で語りかける。
「実は……」
束彩によると、丈吉と束彩の二人は、結婚を反対され東京へ駆け落ちをしたらしい。そういうこともあって、束彩はこの家の人間と折り合いが悪いと言うのだ。こんなところでこんな事実を報告されても困るが、おそらく束彩も打ち明け辛かったのだろう。
「なので私、門前で待っています。夫がいれば、何か会う手段を考えますので」

 束彩の提案に仕方なく同意し、新山の実家のインターホンを鳴らす。
「能面の記者をしております、道山と申します。新山 丈吉さんにお会いしたいのですが、こちらにいらっしゃ……」
言い終える前に、老婆の声で応答があった。
「あいつぁ、どこの馬の骨ともわからん女と駆け落ちして行方が知れん。
 ここにゃおらんし、家に入れる気もありゃせん」
にべもない返事だった。せめて、何か話でも伺えないものかと食い下がったが、インターホンからそれ以上声が聞こえることはなかった。

 失意の中、何か新山の足取りのヒントは無いかと、それこそ藁をも掴む思いで周囲を見回しながら、港へ戻っているときだった。とある民家の物置から、ダンボールの面がちらりと見えた。
「あれ、なんでしょう」
束彩に尋ねると、この島に伝わるなまはげのような神様の面らしいが、詳しいことは知らないと言う。私はその民家を訪ね、物置のダンボールの面を見せてくれないかと相談する。すると、もう不要だから持っていって良いという返事をもらった。私は喜んで物置から面を引っ張り出す。
 その仮面の神様は、新山が作ったひょっとこにどことなく似ていた。


作品名:ひょっとこの面 作家名:六色塔