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ひょっとこの面

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05.依頼



 丈吉の妻━━その名を束彩(つかさ)といった、の言葉に私は再び困惑していた。

 新山の行方を捜したいのはこちらもやまやまなのだ。彼が見つかれば今現在私が抱えている逡巡も瞬時に雲散霧消するのだから。だが、私も仕事を抱えている身であるし、何より人探しの経験など全くと言って良いほどない。いたずらに素人が動き回って、果たして行方をくらました人間を見つけることができるだろうか。
 そんな私の心中を見透かすように、束彩は言葉を継ぎ足していく。
「あの人は、常にどこか人を遠ざけるようなところがある人なんです。懇意になった方がいても、すぐ自分から不仲になって関係を壊してしまう。そんな捨て犬のような人なんです」
束彩は、先程まで自分の涙を拭いていたハンカチを千切れんばかりに両手で握り締め、話し続ける。
「そんなこともあって、あの人は今まであまり人から必要とされない人生を生きてきたと思うんです。でも……」
束彩は、ここで顔を上げ私の顔を見て、語気を鋭くした。
「道山さんが助けてくれれば、あの人は変われる気がするんです。あの人にこのチャンスを掴ませてあげたいんです。お願いします。どうか、どうかあの人を見捨てないで欲しいんです」
「そんな、見捨てるなんて……」
とんでもない、と私は言いかけたが、口に出すことはできなかった。
 確かに、このまま新山が見つからず時が過ぎ去れば、いつかは私も次の面作家に白羽の矢を立てなければならない時が来るだろう。その頃新山が戻ってきても、私が彼を盛り立てる余裕があるかどうかはわからないのだ。
 色々と懸念がないわけではないが、乗りかかった船という言葉もある。仕事の合間を縫ってという形になるが、私も新山探しに一肌脱ごうじゃないか。
「わかりました。一緒に丈吉さんを探しましょう」
腹を決めて返答すると、束彩は安堵の息を漏らした。

 しかし、いざ新山の行方を捜すといっても、取っ掛かりがなければどうしようもない。
「束彩さん。丈吉さんが行きそうな場所に、何か心当たりはありませんか」
束彩はとりあえず、
「思い当たる箇所はほとんど探したのですが……」
と言って考え込む。
 確かに、新山の失踪が3月の中旬なら、その間束彩がただ手をこまねいていたとは思えない。それでも、新山の居場所を何とか突き止めるために、どんな小さな情報でも思い出して欲しいのだ。
 祈るような思いで下を向いていると、束彩の声がした。
「実は、思い当たるところでまだ行っていない場所があるんです」
新山の行方を捜す私たちにとっては、明らかな朗報なのに、束彩のその声は暗い。
「……何か問題があるような場所なのでしょうか」
あまり乗り気でなさそうな束彩に私は尋ねる。
「実は、夫の実家なのですが……、その、行くにはちょっと」
「どちらですか?」
「K県の離島です」
飛行機でも時間がかかるK県のさらに離島。あまりの遠さに一瞬考え込んだが、ここまで来て躊躇はしていられなかった。
「私一人では丈吉さんを説得できないかもしれない。
 あなたの分の旅費も出しますので、一緒に来てください。
 後、丈吉さんが帰ってきたときのため、書置きを残してから出発しましょう」

 こうして、出発の日取りを決め、私は新山宅を後にした。


作品名:ひょっとこの面 作家名:六色塔