ジャスティスへのレクイエム(第一部)
何といっても戦闘に大義がない以上、紛争でしかないのだ。侵略でもない、専守防衛でもない。紛争に対しての戦略など、臨機応変でなければいけないが、それを統率できる人間が本当に軍部にいるかどうかということが問題だった。
「今の軍部ではな」
と、シュルツは頭を抱えるところだった。
建国間もないこの国なので、強化しなければいけないところは山ほどあった、一つ一つのレベルアップが必要なのに、軍部が独断専行してしまうと、政治的には行き詰ってしまうのは目に見えている。
「不拡大方針を政府としては取ることにする。しかし、相手に対してこちらの報復行動だったということはしっかりと明言したうえで行動してください」
ここ数日の戦闘で、有利なのはチャーリア国の方だった。先にアクションを起こしたことで、完全にアレキサンダー国の国境警備隊はうろたえてしまった。
「相手から攻撃はしてこない」
という考えがあったからだが、
「相手からの攻撃はないとは思うが、対峙している関係で、相手との間に不測の事態が発生しないとも限らない。こちらから挑発などは決してしないように」
というのが、相手国の国境警備隊の方針であった。
だが、起こったのは皮肉にも偶発的な事故だった。
考えてはいたはずなのに、本当に起こってしまうとここまで浮き足立ってしまうのは、本当の意味での軍の統制が取れていない証拠となるだろう。
アレキサンダー国の方の首脳としては、
「相手が攻撃してきたことは事実だ。照射の問題は関係ない」
と、外交に持ち込まれても、この路線で突っ切るつもりだった。
お互いに言い分はあるが、その信憑性は限りなく低い。したがって外交でも決め手に欠けることは分かっているので、長期化するのは必至だった。
お互いに自国の名誉を守ることが最優先で、相手の言い分を認めることは許されなかったのだ。
そこで登場してきたのが、WPCによる調停だった。
「両軍を紛争前の状態に戻すことが最優先。そして国家間の言い分が真っ向から対立しているので、二国間での解決は難しい。そうなると第三国により調査団を組織させるから、彼らの視察を受けること」
これが調停の条件だった。
両国とも、その意見に反対はしなかった。
正直、お互いにこの状況をこう着状態のまま推移させることにウンザリしていた。
「どこでもいいから、仲介してほしい」
と、二国とも水面下で近隣の国に調停を依頼していた。
依頼された国とすれば、関わることにはいい迷惑だと思っていたが、こんな時こそ、WPCの権威を利用しようと思ったのだ。
WPCによる決定事項には、実際に拘束力はない。しかし、WPCの決定は、国際社会による目が一つになっていると言えなくもない。無下に抵抗することは、自国が国際社会からの孤立を意味するのだった。
国際社会の目だと考えた時、両国はそれぞれに和平に向かって努力し始めた。調査団の受け入れも承認し、平和のうちに調停に入ったのだ。
調査団の報告は、
「照射はなかった」
ということで、チャーリア国には不利な内容だった。
そのため、この紛争の間にチャーリア国が占領した地域からの撤収。逆にアレキサンダー国が占領した地域はそのまま領有を許される。しかも、その分だけ、国境の移動するということになった。
「そんなバカな」
とチャールズは訝しく感じていたが、
「しょうがないですね」
とシュルツは落ち着いていた。
信頼を置いているシュルツが落ち着いているのだから、それが正解だったということを感じないわけにはいかないチャールズは、それ以上何も言わなかった。
( 続 )
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作品名:ジャスティスへのレクイエム(第一部) 作家名:森本晃次