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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」

                 隣国クーデター

「チャールズ国王、大変です」
 前の日にチャールズ国王の妃が誕生日だったこともあり、盛大な催しが宮廷内で行われた関係もあって、国王はその日は昼過ぎまで就寝している予定だった。
 声のする方をおぼろげな意識の中で見つめたチャールズは、そこに佇んでいるのが自分の腹心でもある軍部参謀長であるシュルツ長官だった。
「どうしたんだ、シュルツ。私は今日は昼まで寝ていてもいい日ではなかったのか?」
 チャールズはそう戒めたが、別に叱っているわけではない。普段から自分への忠義を最優先で考えるシュルツがいきなり睡眠を妨害したのである。それなりに理由があるというものだ。
 シュルツ長官もそのことは重々承知の上のことなので、終始頭を下げまくって恐縮している。
――このシュルツがいきなり来るんだから、何かが起きたことは間違いない――
 とチャールズは感じた。
 シュルツは前の国王である父親の代から国家に、そして王家に尽くしてくれている。それを元国王の父親からも言い聞かされていて、
「いいか、チャールズ。シュルツの言うことはちゃんと聞くんだぞ。彼の言葉を私の言葉と同じだと思いなさい」
 と子供の頃から言い聞かされていた。
 シュルツはその言葉にまがうことなく実際にも絶対的な忠誠を誓ってくれている。少なくともチャールズがシュルツに関わるようになってからというもの、シュルツの忠誠心以外を見たことがなかった。
 シュルツはもう初老と言ってもいいくらいだろう。今年三十歳になるチャールズ国王が子供の頃から見てきたシュルツと今とでは、ほとんど変わっていないように見える。それだけ自分が子供の頃から見てきたシュルツには絶対的な権威を感じるのだった。
 妃を決める時もシュルツの力は絶対だった。チャールズは子供の頃から徹底的に帝王学を叩きこまれたが、シュルツはその中でも「アメとムチ」を兼ね備えた教育を施してくれた。厳しいところは十分に厳しくしたが、柔軟なところはとことん柔軟に対応してくれていて、絶対的な信頼感を与えられたのだった。
 もちろん、教育にはシュルツ一人で携わることなどできるはずもない。何人もの教師がいて、その元締めとなっているのがシュルツだった。さらにシュルツ自身もいくつかの帝王学の資格を持っているようで、専門の先生に聞くよりもシュルツに聞く方が安心できると感じているチャールズだった。
 チャールズが成人し、王位継承が行われると、チャールズの側近の一番手として軍部参謀本部の長官となった。この国は伝統的にチャールズの家系による世襲での王政と取っていて、絶対君主制と言ってもいい国家だった。
 今の世界の情勢として、絶対王政の国も昔に比べれば少なくなっている。共和制の国が増えて、帝政を敷いている国はほとんどなくなってきたのも事実である。チャールズの国家であるアクアフリーズ王国と、隣国のグレートバリア帝国を始めとして、昔はこの周辺は王国や帝国が多かったのだが、先の世界大戦で世界情勢が大きな変化を遂げて、独立機運が高まった時、そおほとんどは共和制の国として独立していったのだ。
 それは世界大戦の原因が帝国主義による世界分割が原因だったからだ。完全な弱肉強食の世界。そこに生まれた支配する側と支配される側の立場の歪が戦争へと駆り立てたのだった。
 世界は帝国主義世界から小国同士の共存の世界に変わったが、それまでにはかなりいろいろな紆余曲折が繰り広げられた。独立を望む国と、元宗主国だった国との確執に、主義主張の重なる国が介入することで、紛争であったり内戦が、独立戦争へと格上げになる。そんな世界を治めるたけの強力な国が実際にはいなかった。あるにはあったが三大強大国と呼ばれる国の主義主張の違いから、これらの国が介入することによって、余計に混乱を生んでしまったのだ。
 それでも数十年前に強大国の一国の体制が、内部クーデターによって倒されると、急に世界は落ち着きを取り戻した。
 ただ、途中で小さな小競り合いは存在していた。
 理由は表だっていないが明らかだった。
「戦争がなくなることによって、損をする人がいる」
 ということである。
 それが一企業なのか、それとも国家単位なのか、そんな集団が秘密結社を募って、世界のどこかで小競り合いの紛争を絶えず起こさせていた。
 大きな紛争にエスカレートさせてしまってはいけない。戦争になってしまうと、予想もしていないことが起こらないとも限らない。他国による介入など考えていないからで、紛争を起こしたからそれでいいというわけではない。
「紛争をいかにして終わらせるか」
 というのも重要で、必要以上に戦闘が長引けば、予定していた利益を割り込むことになりかねない。
 そう思っている秘密結社は、紛争を決して大きなものにはしない。それでも世界のどこかで紛争が起こっているというのは、世界平和を目的として作られた国際平和団体にとっては由々しきことであり、各国の首脳と集めて協議を絶やさないようにしていた。
 この国際平和団体というのは、各国が世界平和を目的に設立したもので、各国の元首よりも立場は上のように作られていた。上と言ってもすべてにおいてということではなく、世界平和を保つための秩序においてだけは絶対的な権力がある。それは民主主義の基本である三権分立における最高裁判所の裁判官のような立場と言えば、分かりやすいであろうか。
 国際平和団体は略して「WPC」と表記される。ここでは各国元首や外相などの全権大使は。あくまでも団体の中での一評議員でしかないのだ。
 もちろんWPCは秘密結社の存在は把握している。諜報活動もしっかりとやっていて、彼らの状況はきっと秘密結社が想像しているよりも把握しているに違いない。
 秘密結社が小さな紛争ばかり起こす理由はここにあった。
 小さな紛争であれば、世界各国のどこでも同時に起こすことができる。大きな紛争というとそれだけ準備も周到にしなければいけないし、お金も相当にかかってしまう。その間に諜報活動から、紛争が起こる前に看過されてしまうわけにはいかないからだった。
 小さな紛争であれば、WPCが介入するわけにはいかない。何しろ一国家の中での小競り合いなのだから、内政干渉になりかねないからだ。それを秘密結社は狙っていた。そのことはWPCでも気付いている。しかし気付いてはいるが手を出すことができない。手をこまねいて見ているしか手はないのだった。
 確かに世界は平和になった。大きな戦争はなくなって、経済はうなぎのぼりとなった国もある。それまでの超大国だけが支配する世界ではなくなってきたのだ。
 そんな中でいまだに帝政を続けている国というのは、経済力を持っていることが大きな原因だった。