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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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星のラポール

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 根元近くの幹に頬を押し当ててノーチェが言う。「フナデもやってみてよ」
「何を?」
「こうやって、耳を当てて目を閉じるの」
「こうか?」
 俺も彼女を真似て木に抱きつく。
「優しい音……」
「音?」
「命の音」
 言われたように耳をつけてみる。だが、それらしいものは聞こえない。代わりに脈打つ自分自身の血流が聞こえた。まあ、これも命の音と言えばそうなのだが、彼女の言うものとは違うだろう。恐らくノーチェは木が水を吸い上げる音を聴いているのだ。
「聞こえる?」
「いや」
 俺は素直に首を横に振った。「俺の命は、こいつより傲慢だ」
「何よ、それ」
 ノーチェが俺を見上げて微笑む。
「木は何十年も、下手したら何百年も生きる。でも俺達人間は、長く生きてせいぜい百何年だ。木の命を聴くには主張が強すぎるんだ」
 ゆっくりと、それでも確かに大地から水を吸い、自らの隅々まで養分を行き渡らせる脈動を感じるには、人間はあまりにもせっかち過ぎる。確か、マウスの心臓は恐ろしい速度で鼓動していると聞いたことがある。
「ねえ、登ってもいい?」
「大丈夫なのか?」
「平気よ」
「じゃあ、行ってこいよ。でも、無理はするなよ」
「はーい」
 こういうはしゃぎようは、やっぱり子どもなんだなと思う。最近はめっきり老け込んだようになっていたから、その自然な態度には安心感を覚えた。くそ生意気で元気いっぱいで好奇心の塊のようだったノーチェに戻ってくれるのなら、少々のことは大目に見てやるべきだろう。
 そんなことを考えていると、頭上から彼女の悲鳴が降ってきた。次いで彼女自身も。
「きゃっ!」
 慌てて俺は、彼女を受け止める。
「ど、どうした!」
「なんか、いたの」
「何か?」
 上で鳥が騒いでいる。
「ああ、それはお前が悪い」
「どうして? 私、何もしてないよ?」
 ノーチェが純粋な問いを発する。
「お前は、あいつらの|住処《すみか》を脅かしたんだ。その気がなくてもな」
「そうなの? 子どもとかいたのかしら」
「だな。それを守ろうとしたんだろう」
 不思議そうな眼で、ノーチェが俺を見る。
「どうした?」
「ううん、何でもない」
 彼女は首を振る。「もう大丈夫だから、下ろして?」
「あ、ああ」
 この先には湖というほどではないが、大きめの池があったはずだ。そのことを伝えると、彼女は顔を輝かせた。
 ただの水たまりや溜め池ではなく、周辺の山々からの地下水が湧き出て出来た大きな泉のようなものらしい。きっとマイナスイオンもたっぷりだろう。
「そこ、遠いの?」
「いや、30分ほど――人間の足でだがな」
「ちょっと、遠いかな」
「じゃあ、連れてってやるよ。向こうに着いても、へとへとじゃ意味ないからな」
 手を差し出すと、彼女はそれに乗って来た。肩に座らせて、俺は歩き出す。30分ということは、だいたい2~3キロくらいだろう。バンガローのあるエリアを抜け、貸テント場を過ぎると、完全な森の小径になった。自分でも空気が濃いのが分かるほどに、緑の匂いがする。
「誰もいないね」
 彼女が言う。
「そうだな。今は雨が多いから。でも、夏になると人だらけになると思う」
「それは、なんだか嫌だな」
「ああ、俺もそう思う。静かなのがいい」
「うん」

作品名:星のラポール 作家名:泉絵師 遙夏