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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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星のラポール

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 言ってしまってから、気まずさを覚えて咳払いする。ノーチェには、さすがに意味は分っていないだろう。
「大人にも、おもちゃがいるの?」
「まあ……」
 言葉を濁す。「体だけ大きくなって、心はガキのままのやつは多いからな」
「ふうん」
 適当に返事して、ノーチェはまた自分の興味に戻る。「これ、良くない?」
 見たところ、何の変哲もないテーブルセットだった。赤白のチェックのクロスの掛かった木製テーブル。それと小洒落たチェアが二脚。その上にはティーセットとイミテーションの朝食の皿が載っている。
 ふむ、これはいいかもしれないな。そして、値段を見て驚く。さっきの店でもそうだったが、どうしてこうも趣味のものは不必要に値が張るんだろう。でもドールハウス自体はもっと高いのだから、テーブルセットくらいはいいだろう。それと……
 ベッドに飛び乗る彼女を見て、息をつく。これじゃまるで、新居の家具選びじゃないか。まあいい、こんなに喜んでいるのだ。悪い気はしない。こっちは少し懐が痛むだけで、羽根が折れてしまうよりはマシというものだった。元通りになるまで居つくのだから、少しくらい楽な暮らしをさせてやっても罰は当たらない。
 ってか、勝手にぶつかって来られた自分が考えることか?
 普通のデートとかなら、ここで食事でもというところだろうが、ちぐはぐな二人では入れる店もない。人のいる所で会話しても、他人から見たら独り言を呟く怪しい奴になってしまう。ノーチェが昼間の街の賑わいに目を奪われ、いちいち声を上げるものだから、あまり無視するわけにもいかずに適当に応えてやらなければならなかった。特に、クレープの屋台の前では困った。色とりどりの見本が並ぶガラスケースを指さして、うるさいことと言ったらなかった。女の興味は種族には関係ないのか。そう言えば、昔飼っていた犬も生クリームたっぷりのショートケーキが大好きだった。もちろんメスだった。
 幾らなんでも女の子が何人も群れている店に男一人で並ぶのは恥ずかし過ぎる。ノーチェは名残惜しそうにしていたが、しぶしぶながらも諦めてくれた。
 その代わりと言っては何だが、帰りにスーパーに寄って食料調達のついでにケーキを買ってやった。
 部屋に戻り、早速買って来たものを拡げた。ノーチェは服を持ってくるくると踊って喜びを表している。おもちゃのテーブルセットをテーブルの上に設え、きちんと食器も並べた。それは奇妙な光景だった。うっかり足を引っかけて落とさないようにしないと、などと考えながら、ケーキを出す。さすがにこれはミニチュアの上に載せられない。
「食えよ。この白いやつはクレープに載ってたのと同じやつだから」
「うん、ありがと」
 ノーチェは小さなスプーンを手に、彼女にしては巨大過ぎるケーキに近づいた。

作品名:星のラポール 作家名:泉絵師 遙夏