星のラポール
「だってさ、元はと言えば、あんたが私の進路を塞いだのが原因じゃん」
「俺は、避けようとしただけだ」
「あんたがじっとしてくれてたら、ぶつからずに済んだのよ」
「目の前に謎の物体が飛んできてもか? そもそも、お前はどうして俺に向かって落ちてきた?」
「あんたが目標だったんじゃないわ。標識が出てたからよ」
「標識? 着陸地点のか?」
「ちょっとずれたけど」
「なんだ、お前のミスじゃないか」
「でも私、行くところないし、あんたはどうも安全そうだし。お互いに責任分け合いっこ出来そうだし」
「勝手に都合よく考えるな」
「ダメ?」
テーブルから見上げてくる目。小さいくせに、仕草だけは人間の女と変わらない。
「好きにしろ」
俺はグラスを呷り、お代わりを作るために立ち上がった。
テーブルに戻ると、ノーチェはすでにうつらうつらしていた。
「もう、寝るか」
訊くと、彼女はこくりと頷いた。
テーブルの上では固くて寝心地も悪かろう。水割りを一口含んで、クローゼットを漁る。いたずら心が首をもたげ、靴下を寝袋代わりに与えてやろうかと考えたが、さすがにそれは可哀想だとやめにした。ハンカチ二枚、そのうちの一枚は、前の女が最後に部屋に来た時に忘れて行った肌触りのいいものだった。それはそれでノーチェに悪い気もしたが、この際仕方ない。
床だとうっかり踏みつけてしまいそうで、テーブルに寝床をしつらえてやる。彼女はもう完全に横になって眠っていた。
こいつ、意外と整った顔立ちをしているな。
指先でつつくと、何か言って寝返りを打った。そっと敷布団代わりのハンカチの上に載せ、もう一枚を被せてやった。
まったく、俺は何をやってるんだか。
その夜、弁当を肴に結構深酒をしてしまった。