星のラポール
「ああ、まあ、それはある」
でも、それだけではない。ロープを揺らし、悲鳴を上げる者を出来るだけ遠くへ投げ飛ばしてやろうという意地悪さ。それがなかったとは決して言えないからだ。
「馬鹿なことほど、意味もなく面白いな」
「かもね」
その後、バンガローに戻った二人は疲れ果てて眠った。俺の眼が覚めたときは、既に7時を過ぎていた。ノーチェは既に起きていて、テレビを見ている。
「ああ、悪い。すっかり眠っちまった」
「いいよ、フナデはいつも疲れてるんだし」
「俺って、そんなに疲れてるか?」
「ボロボロだよ」
「自分では、そうは思わないけどな」
頭を掻きながら言う。このキャンプ場には温泉もある。誘ってみたが、どうやらそんな気分ではないらしかった。昼のことも加えて、女心というのは、年齢や種を越えて理解不能な深宇宙のようなものらしい。
「腹、減ってるだろ?」
冷蔵庫からオーガニックのパンを出そうとする。
「ううん、いい。いっぱいエーテルもらったから」
「そうか」
田舎の自然や、地下水の湧く泉で遊んだのが功を奏したのだろうか。彼女の頬は紅潮し、活き活きとしていた。
「ねえ、フナデ」
ノーチェがいつになく真面目な目線で訊く。
「何だ?」
「フナデってさあ、私のこと、どう思ってる?」
「どう思ってるって……」
これは、リアルな女の質問としても危険度が最大級のものだ。俺は考える。だが、そんなに長い猶予はない。
「そうだな……」
とりあえず、俺は言う。「お前は――ノーチェは小さくて、か弱くて、守ってやりたい。帰りたいって言ってただろ? だから、それまでは責任をもたないといけないと思ってる」
「フナデ?」
「何だ?」
「私ね、黙ってたことがあるの」
「うん?」
「ホントはね、羽根を直す方法を知ってるの」
「じゃあ、何で? あんなに苦しんでまで」
「だから、難しいって言ったでしょ」
俺は、冷蔵庫からビールを出す。それと、ふたり一緒に食べられそうな、無人販売所で売られていた漬物や果物を並べる。
「ゆっくり飲もうか」
「うん。ゆっくり」
瞳が微笑み合った。