ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ
「でも、あそこに戻したら、いつか殺されるんじゃ」
「狩場から離れた場所に戻します。それは、元々あそこにはいない種なのです」
うん、そうだよね。
迷子だもんね。
「ふにゅ~」
うんうん。いま、返してあげるからね。
「ふにゅ~」
え? いや、駄目。なんでそんな所に潜り込むの!
社長が、じっと私を見てる。
いや、だめ! くすぐったいってば!
いっ……。
ぷるぷる、ダメ……
あ……、ん……ぁん……。
ばんっ!!
強めに叩く。
「随分と懐かれたようですね」
「いや、その……」
「しかし、元の世界に返さないと、数時間と命は持ちませんからね」
「はい……」
可哀想だけど。
シャツの内側から、子スライムを引っ張り出す。
ぐったりしてるそれを、社長に差しだす。
「いえ、それはあなたの手で帰してあげてください」
社長は自分の席の端末を操作し、前と同じように応接セットの壁を指す。
「ごめんね」
私は、スライムを持った手を額の方に伸ばす。
腕まで差し入れた時、スライムが目を覚ました。
「ふにゅ~」
哀しそうな眼。
戻ってこようとする。
「だめよ」
「ふにゅ~」
「ふにゅ~」
思いっ切り遠くへ投げる。
「ふにゅ~…… … 」
哀れを誘う声が遠ざかっていった。
そのあと、私は例のちゃんこ饅頭を社長に渡してオフィスを出た。
ドアの横で、さやかさんが震えてる。
どうしたんだろう?
「さやかさん?」
え? 何? 泣いてる?
「社長さん、怖い」
「そう?」
「だって……」
調子こいてると、異世界に封印すると言われたらしい。
言われたっていうか、念を感じたんだって。
さっきの子スライムのこともあって、ちょっと可哀想に思った。
「さやかさん」
声をかける。「口直しに、美味しいものでも食べに行こっか」
まあ、その後どうなったかは、ご想像にお任せします。
じゃ、またねー
バイバイ。
作品名:ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ 作家名:泉絵師 遙夏