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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ

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 って、こらっ! 急に入ってくるな!
 ってか、人に毒見させといて、それなら最初から一緒にいてよ!
「だって、くっそまずいやつだったら嫌じゃない」
 おのれ……
 はるかさんとやりあってると、柳井さんが声をかけてくる。
 はい、次の準備ですね。
 うん、バーベキューだって。
 って言うかさ、はじめが酢味噌和えで次がバーベキューって、全然イタリアン関係ないじゃない。
 この人、ひょっとしたらスライム食べたいだけ?
 それか、未知の食材を料理するのが趣味とか?
 まあ、いいや。
 私はバーベキューの準備をする。
 大皿に盛られた色とりどりのスライムの切り身。
 やっぱり、あんまり美味しそうじゃない。
 でも、みんな喜んでるし。
 私はとりあえず、野菜ばっかり食べる。
「ねえ、スライムも食べようよ」
 と、さやかさん。
「また、最初に味見するのは私なんでしょ?」
「えへへ」
「今日からベジタリアンになる」
「みんな、美味しそうに食べてるよ」
 うん、確かに。
「これ」
 さやかさんが指さす。
 赤いやつ。
 これって、どっちか分からないやつよね、確か。
「あ、それ、旨いっす。俺が取ったっす」
 お相撲さんが笑顔で言う。
「ね、美味しいって言ってるよ」
「う……」
 くっそ不味いやつだったら、どうすんのよ。
「もう……お客さんのおすすめなんだから」
 あ……
 入って来た。
 考える間もなくほど良く焼けた切り身を取り、口に投げ込まれる。
 その瞬間、さやかさんは離脱。
「うぷ……」
 これ、くっそ不味いやつだ。
 お相撲さんを見る。
 美味しいって、言ったじゃない!
「やっぱ、くっスラだったか」
 さやかさん。
 勝手に略すな!
 涙目になる。
 お相撲さん、何で親指立ててんのよ!
 おえっ

・・・・・WWWWWWWWWWWW
――ただ今、非常にお見苦しい展開となっております。
  たいへんご迷惑をおかけ致しますが、少々お待ちください――
WWWWWW・・・・・・

 くぅ……。
 川で顔を洗う。
 この水、ちょっと甘い。
 炭酸水っぽい。
 だから、口の中もさっぱりした。
 ふぅ。
 ちょっとは落ち着いた。
 あ、ごめんなさい。
 とんだ醜態を。
 見えてなかった?
 そう? なら、よかった。
「大丈夫ですか?」
 参加者の一人が心配そうに見てる。
「申し訳ありません。もう大丈夫です」
 ああ、死ぬかと思った。
 やつめ、絶対祓ってやる。
 まあ、バーベキューだったから、みんな適当にやっててくれて助かった。
 フルコースとかだと、こうもいかないからね。
 うん、ついでに洗濯しちゃおう。
 炭酸水だけど、大丈夫よね。
 んで、洗ったやつをバスの陰に干して、仕事に戻る。
 ちょっと、すぅすぅするけど、しょうがない。
「申し訳ないっす」
 お相撲さんが言う。
「いえ、私こそ、申し訳ありませんでした」
「これ、お詫びの印っす」
「いえ、どうぞ……お気遣い……なく」
 引き攣《つ》った顔になる。
 なんとか笑顔で通したこと、褒めてよね。
 だってさ、お相撲さんがくれようとしたの。
 ちゃんこ饅頭。
 おぃ、そんなの聞いたことないぞ。
 この人の味覚、絶対おかしいから、食べたくない。
「いいじゃん、もらっちゃえば」
 さやかさん、いつの間に!
 でも、拒否するのも悪いので、とりあえずもらっておく。
 車中のおやつのために持って来たって言ってたから、自分用に。
「あとで食べようね」
「社長にあげる」
 私は言う。
「えー? もったいないじゃない。せっかくくれたのに」
 さやかさん、私の肩をつつく。
「え? なんでもじもじしてんの?」
 お相撲さん、なんか赤くなってるし。
「はるちゃんも、隅に置けないよね」
「変なのは、あんただけで充分よ!」
 じゃあねーって、さやかさんがどっか行く。
 もう帰って来るな。
 最後のデザートは、スライムシャーベットだった。
 絶対食べたくない。
 普通にゲテモノも食べたくないのに、異世界の変なのなんて何の罰ゲーム?
 私、そんなに悪いことしてないよ?
 してないよね?
 してないって、言って!
 さっきのこともあるから、私は食べる振りだけしてごまかした。
 さやかさんがまた同じことしようとしたから、思いっきり睨んでやった。
 ふう。これで終わり。
 で。
 んで。
「こちらが、スライムお持ち帰りセットです。冷蔵で約一週間、冷凍だと半年保存可能ですので、今回の旅のお味をいつでもご家庭でお楽しみ頂けます」
 努めて笑顔で言う。
 いりません、私は断じて。
 持ち帰ってたまるかっ。
 で、あの、さっきの洗濯物ね。
 あれね。
 なくなってた。
 見に行った時、なんか黒い塊になってて……
 蟻に食べられちゃってた……
 さやかさん、それ見てまた爆笑して。
 ヒモパンどころか、ヒモって。
 私、そんな趣味ないからねっ。
 って、なんとか私の単独デビューは終わったわけで。
 でも、忘れてた。
 何をって?
 うん、そう。

 オフィスに戻った私は、社長に叱られてしまった。
 まあ、当然よね。
 大失態だし。
 私のせいじゃないけど。
「あまり褒められたものではありませんが」
 友重《ともしげ》社長が言う。
「すみませんでした」
「ただね、今回は高穂木さんにお願いしてよかったと思っています」
 え? どうして?
「実はですね。このツアーは今回きりで中止するつもりだったのですよ」
「はあ」
 だから、どうでもいい私を選んだのね。
「このツアーの目的はB級グルメを味わうということなのですが、いつの間にかストレス発散の殺戮目当ての参加者が増えてしまいましてね。倫理上よろしくないので」
 まあ、そうだろうな。
 みんな、異様な殺意丸出しだったし。
「でも、それと私が何か?」
「ええ。今回はですね。殺戮だけではない何か別のものを、参加者の方々には感じて頂いたようで」
「はあ」
「それもひとえに、高穂木さんのお蔭なのですよ」
「私は何も……」
「そうですね。ただ、これはあなたの人柄といいますか、魅力といいますか」
 褒められてるの?
 よく分からないけど。
「ただ」
 社長が厳しい口調になる。「あの、冴木《さえき》さんでしたか。あの方には少々お灸をすえないといけないようですね」
 うん、それは私もそう思う。
 冴木さんじゃなくて、さやかさんだけど。
 その本人って言うか、本霊、とっとと逃げて行ってしまった。
 社長、ぜひお願いします。
「それともう一つ。高穂木さん?」
「はい」
「そのポケットの中のものは何です?」
「え?」
 あ、すっかり忘れてた。
「ふにゅ~」
 紫スライム。
 あ、ごめんね。連れて来てしまった。
「異世界の生物を持ち帰るのは、いけません」
「すみません。すっかり忘れてました」
「あなたは、よくそんなのを持っていて平気ですね」
 と、社長。
「何か、危険なものとか?」
「危険も何も、それは猛毒スライムですよ」
 へ? マジで?
「ふにゅ~」
 でも、なんか弱ってるように見える。
「そのスライムには、この世界の空気は毒なのですよ。今すぐ、元いた世界に戻しましょう」