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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ

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チキンなはるかのチキン地獄


 こんにちは。
 伊勢界《いせかい》トラベル&ツアーズの高穂木《こうほぎ》はるかです!
 え? 何ですか?
 かの有名な、し――
 ちっ…違いますっ!
 あれは全部、さやかさんの仕業なんです!
 ごふっ!
 フライドチキンのおっさんに頭突きされ――いや、して……じゃない。
 させられてしまった。
「人のせいにしないっ」
 さやかさん、だからっていきなり頭押さないでよ
 いや、このおっさん固すぎでしょ。
 にこにこ笑ってる場合じゃないよ。
「いいじゃない、どうせ、さやかさんは恥かかないんだし」
 言ってやる。さやかさんに。
 ってか、あんた人じゃないでしょ?
 さやかさん。
 研修のときについて来た幽霊。
 幽霊のくせにお化けとか怪談が怖いっていう、変なやつ。
 ああ、今日はですね。
 遊んでるじゃないんですよ。
 その顔で言っても説得力ないって?
 ほっといてよ、好きでこうなったわけじゃないんだから。
 今日は急なお客さんが来るというので、社長からお菓子を買って来るように言われて、そのおつかい中。お客さんって、普通に旅行の申し込みのじゃなくて、ビジネスの方ね。
 いや、言ってる意味わからないか。
 ま、いいや。
 そんで、デパートに向かってるところ。
 途中で寄り道して、アイス買って食べてた。
 ふたりで。
 ん?
 これでいいのかな?
 ひとりと一体?
 幽霊って、ひとり、ふたりでいいんだっけ?
 さやかさんは、ご飯食べる時とか、私にちょっと憑りついてくる。
 今もそう。
 さやかさんと一緒にアイス食べてた。
 そんな時に、チキンおじさんに頭突きさせられたもんだから、当然顔面にアイスが……
 ってか、今の衝撃でちょっとだけ……
 ごめんなさい。
「お化粧やり直しじゃない、もう!」
 ハンカチで顔を抑えながら、フライドチキン店に入る。
 まさか、こんなことになると思ってなかったから、お化粧品はオフィスに置いたまま。
 すっぴんかアイスまみれか選べって言われたら、もう、すっぴんの一択しかないし。
 まあ、とりあえず綺麗に顔洗って。
 でも、そのままお店を出るわけにも行かず。
 って、さやかさん!
 なんで並んでるのよ!
 お昼にお肉食べたじゃないのっ。
 え? なんだって?
 だめ。
 さやかさん、昔を思い出して急に食べたくなったって。
 嫌です。
 そんなに、お肉ばっかり食べてたら、太っちゃうから。
 さやかさんはよくても、太るのは私なんだから。
「買わないよ」
 でも、お店に悪いのでドリンクだけ買おうと並ぶ。
 それでも、あんまりいいお客じゃないかも知れないけど。
 で、私の順番。
「すみません」
 メニューのドリンクを選ぼうと――
 あ……
「あれをお願いします!」
 はぅあっ!!!!!?
 ダメ、ダメったら!
「急ぎでお願いできますか!」
 私じゃない。
 私じゃないからね!
 おのれ、さやか。
 さやかさん、注文する瞬間に私に憑りついてきて、一番高いやつを頼んだ。
 でも、周りから見たら、間違いなく私が注文してるわけで。
 しかも、店員さんより大きい声で。
 うぅ……恥ずかしい。
 ってか、どうすんのよ。
 預かって来たお金、もうなくなっちゃうよ。
 お菓子、買えないよ。
 怒られる。
 どうしよう……
「せっかく美味しいお菓子、買うつもりだったのに」
「じゃあ、取り消そうか。お菓子もいいよね」
「あんたね、なんにも考えずに行動するんじゃない」
「うん、分かった」
 入ってこようとする。
「あ、ダメダメ。今更取り消しなんて」
 だって、店員さんが一所懸命チキンを詰め込んでる。
 仕方ない。帰ったら謝ろう。
 ああ……
 おやつがフライドチキンなんて、いなくはないだろうけど、あんまり多くはないはず。
 例えば……
 こんな人とか。
 こんな人とか、こんな人……とか?
「うぃっす」
 うん。
 鉢合わせしてしまった。
 あのお相撲さん。
「あ、くっスラの海!」
 さやかさん、あんた何言ってる?
 また勝手に変な名前つけるな!
 おえっ。
 思い出した。
 ああ、くっスラってのは、くっそ不味いスライムを、さやかさんが勝手に略したやつ。
 んで、このお相撲さんは、それを美味しいって私に薦めた人。
 だからって、くっスラの海は失礼。
「ああ、先日はどうも」
 私は頭を下げる。
「ガイドさんも、おやつですか?」
「まあ……」
 違う。違うけど、違わない。
「俺もっす!」
 って、私が持ってるのと同じサイズのを二つも。
 あなたと一緒にしないでください。
「ガイドさんと同じものを食べられて、嬉しいっす!」
 いや、嬉しくないし。
 無理やりこうなっただけだし。
「よかったら、これから一緒に食べないっすか」
 遠慮しときます。
 食べないっす。
「あの、会社のおつかいで。これはお客さまにお出しする――」
 おやつじゃないよね。おやつのつもりだったけど。「軽食です」
 そう言うしかない。
「そうっすか」
 残念そうな、お相撲さん。「じゃあ、これ、あげるっす!」
 あ、いや。
 もういいですから。
 うっ。
 私のバケットの上に、もう一つ載せて来た。
「いえ、どうぞお気遣いなく」
 顔が引き攣《つ》る。
 でも、営業スマイルが出てしまう自分が哀しい。
「じゃあ、俺は戻るっすね」
 子どもみたいにバイバイして去って行くお相撲さん。
 二段重ねのバケットを抱えながら、呆然と見送る私。
「はは~ん」
 さやかさん。
「何よ。早く戻らないと、怒られる。行くわよ」
 ってか、重いから。
 早く戻ってしまいたい。
「くっスラの海、はるちゃんのこと気に入ったみたいね」
「なっ――」
 何を言う!
 ってか、くっスラの海じゃないでしょ?
「まぁまぁ」
 こら。脇腹を突っつくな!
 ってなわけで、オフィスに何とか到着。
 もう、手が痺れて……
「これはまた、変わったお菓子ですね」
 って、友重《ともしげ》社長。
 嫌味ですよね。
「これは……」
「まあ、いいですよ」
 社長が笑う。「今日のお客は、こういうサプライズには理解があるので」
 そんで、私を真っ直ぐに見る。
「でもですね。どうせサプライズなら、もっと、こう……」
 いや、いいです。
 変なもの買いに行かされたりするのは、ごめんです。
「すみません」
 謝っとこう。
 色んな意味で。
「それにしても、二つは多すぎますね。一つは自分で持って帰ってくださいね」
「……」
 せめて、みんなで分けましょうとか、言ってください。
 あ、そっか。
 一つで充分なんだ。
 うぅ……
 昼もおやつも晩ご飯もお肉。
「冷凍してチンしたらいいだけやん」
 さやかさん。
 誰のせいだと思ってる!
 そろそろ真剣に、こいつの祓い方を考えないと。
 あ、お客さまだ。
「はい。ようこそお越し――」
 こらっ!
 さやかさんっ!
 おやつはまだ!
 入ってくるな!
「チキン♪」
 嫌だぁー!
 私じゃない!
 私じゃないのよぉぉぉ!