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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ

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 何て言ったらいいのか、ぷにぷにして地面を這ってるんじゃなくて、確かにぷにぷにっぽいんだけど、ヒトデ?
 星型なの?
 スライムって、こんななの?
 でも、なんか可愛い。
 そんなことを思ってると、背後から突き飛ばされる。
 いでっ!
 はしたない声を出してしまって済みません。
 いきなりスライムに攻撃された。
 くそっ!
 かくなる上は。
「では皆さま、戦闘開始です!」
 私は声を張り上げた。
 うぉぉぉぉぉ!
 参加者たちが一斉に駆け出す。
 ちょっかい出そうとしていたスライムたちが逃げまくる。
 うん、ちょっと分かる。
 みんな、ストレス溜まってるんだよね。
 参加者が片っ端からスライムをフルボッコにしていく。
 見てて可哀想なくらい。
 でもね。
 でもねでもね。
 あれ、反則。
 ヤバいよ。面白過ぎるよ!
 お相撲さん、スライムとぷにぷに対決してる。
 お腹にアタックしてくるスライムが弾き返されてる。
 どっちも、ぽよんぽよん!
 うっあ! ヤバいヤバい、今回は別の意味でちびりそう!
 しかも、張り手とかしてるし。
 私の横で、さやかさんが転げまわって笑ってる。
 こんなの、下手なコントよりずっと面白いよ!
 いや、なんで今、ごっつぁんです! って言うのよ!
 あ、そうか。捕まえたんだ。だからか。
 食べる前からごっつぁんですって!
 あ、さやかさん気絶した。
 笑い過ぎて。
 幽霊も気絶するんだ。
 そのまま成仏してくれていいよ。
 ん?
 なんか脇に違和感が。
「ふにゅ~」
 ふにゅ~?
 見ると、紫色。
 紫色の。
 スライム!?
 一瞬払いのけようかと思った。
 でも、その小さいな紫色のスライム、ウルウルした目で私を見てる。
 資料にも紫色のスライムはなかった。
 こいつは、激レア?
 超おいしいやつ?
 そんなことを思ってると、そのスライムの目から涙が。
 あ、ごめん。
 食べないから。
 そっと、手を差し出す。
 紫スライムは最初、怖がってたけど、何度も私の目を見て、最後にはぴょこんって手のひらに乗ってきた。
 うぁ、可愛い。
「はぐれたの?」
 訊いてみる。
「ふにゅ~」
「仲間は?」
「ふにゅ~」
「ふにゅ~」
「ふにゅ~!」
 なんか、よく分からないけど、通じたみたい。
 喜んでる。
 しかも、すりすりして、微妙に懐かれちゃったみたい。
 え?
「動かないで」
 女の人が、目の前に立ってる。
 参加者の一人。三十歳くらいの女の人。
 目がギラついてる。
 剣の切っ先が私に向けられる。
「あ……だめ……です」
 紫スライムが私の後ろに回る
 女の人が、それを目線で追って。
 冷たい光を放つ切っ先が私を|嘗《な》めるように……
 うう……怖い。
 ごめんなさい。また、やっちゃいました。
 ここは安全だって言われてたから、完全に気を抜いてた。
 でも、やらかしてしまえば、後は冷静にならざるを得ないわけで。
 そう、彼女は。私を狙ってるんじゃない。
 狙われているのは、この子。
 意を決する。
 そして、出来るだけ冷静に。
「だ……駄目ですよ、お客さま」
 私は言う。「子スライムは狩ってはいけないことになっています!」
 ふっ
 緊張が解ける。
「ああ」
 女の人が言う。「そうだった。つい……」
「他にも、子スライムを?」
「違いますよ。ガイドさんが襲われてると思ったから」
「ああ、そうだったんですか。こちらこそ、きついこと言って申し訳ありません」
「ついつい熱狂してしまって」
「いえ、楽しんで頂けて、何よりです」
「じゃあ、私はもうひと暴れして来る」
「はい」
 どりゃぁぁぁぁ!
 って声を上げながら、見境なくスライムに切りかかって行く。
 あの人も、色々ストレス抱えてるんだろうな。
 でも、この子、すごく怖がってる。
 プルプル震えてる。
 そりゃそうよね。
 目の前で仲間が殺されまくってるんだし。
 そっと撫でてやる。
 ああ、その目はやめて。
 食べたくないけど、別の意味で食べたくなっちゃうから。
 紫子スライムをポケットにかくまう。
 この光景は、小さな子にはあまりにも酷い。
「ちょっと窮屈だけど、我慢してね」
「ふにゅ~」
「あれ? なんか面白いの持ってるじゃない」
 意識を取り戻したさやかさんが言う。
「面白いとか」
「だって、そうじゃない。スライムの子ども」
「そうよ。だって、あんなの見せられないでしょ? この子、怖がってるし」
 たった六人の人間によって繰り広げられる惨劇。
 弱いくせに襲いかかってくるスライムたち。
 死屍累々の草原。
「まあね」
「さやかさん、怖くない?」
「べつに」
「幽霊は怖いくせに」
「それとこれとは別」
 そもそもこのツアーって、スライム食べる目的だよね。ストレス発散のために殺しまくるのが目的じゃないよね。
 うん、そう。
 だったら――
「はーい、皆さん!」
 メガホンを取って、思いっきり大きな声で言う。「狩りは終了です!」
 不満の声が漏れる。
 私はすかさず言う。
「只今より、目白の一流イタリアンシェフが、その腕を振るって皆さまに極上の異世界B級グルメをご提供致します!」
 ざわめきが起こる。
 みんな暴れすぎてお腹空いてるんだ。
 うん、これは分かる。
 ごっつあんですって、聞こえた。
 柳井さん、まな板を前に両手で包丁を持ってポーズする。
 二本の包丁が陽の光を受け、それを交差させると、アニメの効果音みたいにシャキーンって鋭い音が響き渡った。
 私は柳井さんの傍に行き、メニューを聞く。
 ふんふん。
 まずは前菜ね、給仕係はいないから、私がお皿を用意したり食器揃えたり。
 柳井さんは黙々と包丁を振るい……
 見事にスパッと断ち切られるスライム。
 グロテスクな展開を予想してたけど、スライムって内臓とかないのね。
 あるのかも知れないけど、いや、あった。
 真ん中辺りに、体と同じ色のザクロみたいなのが。
 柳井さんはそれを投げ捨てると、残りの身を薄切りにし……
「まずは、スライムと季節の野菜の酢味噌和えです。どうぞご賞味ください」
 名前聞くだけじゃ、全然美味しそうじゃない。
「これって、美味しいんですか?」
 柳井さんに訊く。
 柳井さん、それには答えずに親指を立てる。
 ああ、俺の腕を信じろってことね。
 参加者の人たちが、私を見てる。
 ごくり……
 私が毒見役か。
 でも、柳井さんは自信満々だし、さっき見てたら、ちょっと味見してたし、死ぬことはないはず。
 恐る恐る、お箸でつまむ。
 ぷにぷに。
 コンニャクみたい。
 それよりもうちょっと柔らかい感じ。
 ええい! ままよ!
 口に放り込む。
 んぐっ
「どう?」
 さやかさんが訊く。
 んぁ?
 何これ、美味しい!
 食感がすごくいい!
 身の甘みと酢味噌が絶妙のバランス!
 柳井さんを見ると、満面の笑みでもう一度親指を立てて見せてくれた。
 いや、ゲームでもお話でも、これまでスライム食べた人の話なんてなかったから、こんなに美味しいとは思わなかった!
 食わず嫌いって、恐ろしいね。
「うそっ。美味しいの? 私も食べる!」