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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ! Ⅱ

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ぷにぷにはお好きですか?


 この度は私共、伊勢界《いせかい》トラベル主催の“未知の食材を味わい尽くす”ツアーにご参加くださいまして、ありがとうございます。
 わたくし、このツアーのご案内役をさせて頂きます高穂木《こうほぎ》と申します。
 なにぶん経験不足もあり、至らぬこともあるかと存じますが、その節はご遠慮なくご指導のほどよろしくお願いいたします。

 こんにちは。
 私は伊勢界トラベル&ツアーズの高穂木はるか。
 この会社は異世界や不思議ツアーの企画をメインにしている異色の旅行会社。
 今回は、私が初めて単独でガイドを務めさせてもらうことになった企画のお話ね。
 最後まで楽しんでもらえたらいいな。
 こら! ちょっと! 走り回らないの!
 なんであんたが、はしゃいでるのよ!
 ああ、今、バスの中を走り回ってるっていうか、時々飛んだりしてるのは、さやかさん。
 京都での恐怖ツアーで私にくっついてきた幽霊。
 あの世は怖いくせに、初めての異世界ということではしゃいでる。
 このさやかさん、幽霊のくせにお化けとか怖くて、だから幽霊ばっかりのあの世へ行けないっていう情けない人。
 人じゃなくて、幽霊だね。
 んで、単独でガイドするって言ったけど、実は専属の料理人が同行してる。
 普段は目白でイタリアンをやってる一流シェフの柳井《やない》さん。
 背が高くてちょっと格好いい。
 でも奥さんとお子さんもいるらしいから、エリア外。
「気に入ったんなら、奪っちゃえ」
 さやかさんが言う。
「そんなこと、出来るわけないじゃない」
「なんなら、私が手助け――」
 とにかく、仕事の邪魔しないで。
 私はさやかさんを追い払う。
 適当に空いてる席に座ってて。
 ――こら! 運転手にちょっかい出すな!
 事故ったらどうすんのよ!
 ああ、ごめんなさい。
 仕事します。
「これから向かう先は、お手持ちのしおりにもございます通り、知る人ぞ知る異世界B級グルメ食材として有名なスライムの世界、その名もスライム・ワールドです。私も初体験ですが、楽しみです。皆さまにも楽しんで頂けたら、私も非常に嬉しく存じます」
 って、全然楽しみじゃないし。
 言いながら思う。
 よくこんなことを、笑顔で言えるものだ。
 これも、非情の特訓のせいだ。
 敢えて、おかげとは言わない。
 うえっ。
 スライムなんて食べられるの?
 アニメとかでしか見たことないけど、実物を見るのは今回が初めてになる。
 そんで、手持ちの資料。
 スライムについての情報。

 おいしいスライム:黄色 まあまあ強い
 そこそこおいしいスライム:赤 強い
 普通のスライム:白 弱い
 くっそ不味いスライム:オレンジときどき赤 激強

 あのね、名前がおかしいでしょ?
 普通なら、逆でしょ?
 イエロースライムが美味しいとかなら分かるよ。
 なんで味で名前決めてんのよ。
 ってか、くっそ不味いスライムって何よ。
 しかも激強って、おちょくってるの?
 その上、そこそこおいしいやつと被ってるし。
「ねえ、さやかさん」
 訊いてみる。「スライム、食べたことある?」
「あるわけないやん」
 この人、ってか幽霊、京都人で時々京都弁になる。
「だよね。食べたい?」
「気が進まないな」
 まあ、そりゃそうだよね。私だってそう。
「じゃ、一緒に食べてみようね」
「最初にはるちゃんが食べて、おいしかったら」
 こいつ。都合のいい時だけ。
「そんなこと言うんだったら、くっそ不味いやつ食べさせるよ」
「あのね、その場合ははるちゃんも味が分かるんだよ」
 うぇ、そうだった。
 さやかさんは美味しそうなものを食べる時とか、私に半分だけ? 乗り移ってくる。
 だから、私も味がわかるわけで。
 何が起こってるかもわかるわけで。
 全部丸投げにすることは出来ない。
 役に立たない奴。
 でもね、ホントは全部乗り移ることも出来るらしいんだ。
 ただ、その時は私の感覚はなくなって――
 好き放題させてもらうなんて、はるかさんが言うから、怖くて出来ない。私の身体で、私の知らない間に何をされるかなんて、想像したくない。普通にお化けとか何だとかいうより、それは違う意味で怖すぎる。
 そんな怖いこと出来るくせに、お化け怖いとか、ホント訳わからない。
 はいはい、仕事仕事。
 って、この世界、スライム・ワールドって、まんま過ぎる名前。
 せっかく企画立ててるんだから、もっといいネーミングあったでしょうに。
 例えば……
 すみません。
 思いつきません。
 なので、スライム・ワールドでいいです。
 凝った名前は憶えられません。
 バスは所々に岩山のある草原を走ってる。道なんてないから、四輪駆動のごっついバス。
 さっきからお客さまに皆さんとか言ってるけど、参加者は6人しかいない。つまり、運転手とシェフの柳井さん、私のスタッフ3人。お客さま6人。
 これで儲かってるのかと不思議に思う。
 でもね、参加者6人っても、重量的には倍はある。
 これは、どこかの部屋の興行ですか?
 しかも、ひとりは浴衣着てるし。髷《まげ》結ってるし。
 絶対マジもんでしょ?
 あいさつは、ごっつぁんです! しか想像できないよ。
 いやいや、お客さまに失礼。
 でも、涎《よだれ》垂らして寝てるお相撲さん。絶対に夢の中でスライム暴れ食いしてるんだろうなって想像がつく。
 だって、口がもぐもぐしてるし。
 はい、仕事に戻りまーす。
「長らくお待たせいたしました」
 私はマイクを握り直す。「あと少しで目的地に到着いたします。今一度、注意事項をご確認ください」
 そう、このツアーは、ただスライムを食べるだけじゃない。
 それを捕まえないといけないんだ。
 だから、みんなそれぞれに武器が支給される。
 ひとりずつ、指示書に従って武器を渡す。
 銀の剣、勇者の剣。いばらの鞭……
 これってゲームのアイテムじゃないの?
 んで、なんで私が棍棒? しかも最弱じゃないの!
 なに?
 追記事項がある。
 ある特定のスキルを発動すると、天下無双の弓矢に変化する。
 って、これってどんな設定なのよ!
 それに、ある特定のスキルって何?
 ああね。
 あのお相撲さんの武器ね。
 これ、武器なのかな。
 塩。
 確かに力士は土俵で塩撒くけど、あれって武器なの?
 違うでしょ?
 でも、それを渡した時、やっぱり言った。
「ごっつぁんです!」
 食うんかい!
 そしてシェフの柳井さん。
 武器じゃないけど、鋭利に光る包丁を持ってる。
 捌《さば》くんだよね。それでスライムを。
 バスが停まる。
 運転手が私に合図する。
「お待たせいたしました! ここが目的地――」
 ん? ん?「スライム平原です!」
 って、そのままやないけ!
 ずっと平原っぽかったのと違うんかい!
 一行、バスを降りる。
 草原、岩山。川が流れてる。
 風が気持ちいい。
 昼寝でもしたい気分。
 でも、それは出来ないんだよね。
 なんか、そこらへんでピョンピョン飛んでるし。
 ほぉ、あれがスライムなんだ。
「なんか、イメージ違うよねー」
 さやかさんが言う。
 うん、確かにそう。