和ごよみ短編集
家でも祖父母の言うとおりに部屋中の電気を消して「鬼は外 福は内」ご近所に丸聞こえな声を張り上げる。恥ずかしさは少々あるものの 隣からも同じであれば なんてことはない。鬼など入れはしないぞと可愛らしく恐い顔をしながら 見えない鬼に豆を投げる。
鬼の目を打つ魔目(まめ)。先人は 語呂合わせや言葉遊びがよっぽど好きなのでしょう。
投げ終わると ばしゃん! まだサッシでない硝子戸を力強く閉める。
そうそう面白いものを見たことがある。木の枝に魚の頭が突き刺してあったのだ。
「あーあ、干物を乾かしていて 身を食べられたんだ」と思っていた。のちに『やいかがし』という魔除けであることを教えてもらった。焼いたいわしの頭をひいらぎに刺して門前に置くと 臭いを嫌がる鬼が来ないとのことらしい。案外 鬼もおちゃめな一面があるものだと思ったが、猫などが食い荒らす為か見ることはなくなった。
昨今、『恵方巻き』なるものがある。
発祥は関西かららしい。だから元は『丸かぶり寿司』というらしい。
冬の陰気を祓い、厄を祓い、鬼に喩えられる疫病や災害を追い出し、なおかつ 無病息災を願う。どれだけ神仏が生活に入り込んでしたのだろう。
『恵方巻き』こと『丸かぶり寿司』の具は七福神にちなんで七種類。
誰がどれだか なんでかなぁ…と挙げてみるのも いとをかし……
大黒天(台所の神) シイタケ煮
恵比寿(商売繁盛・海の神) ウナギ(アナゴ)焼き紅鮭
毘沙門天(仏法を守る神) 伊達巻(だし巻・厚焼き卵)
弁財天(唯一の女性・才能の神) 桜でんぶ(おぼろ)菜の花
福禄寿(長寿と幸福の神) 三つ葉(ほうれん草)キュウリ
寿老人(長寿の神) かんぴょう
布袋和尚(大きな布袋を担いでる神) 高野豆腐 しそ(大葉)
とにかく 太巻きにして何もしゃべらず食べれば 腹いっぱいです。
さてと 豆まきが終わって年の数だけ食べましょう。いっぱいで食べられない?
その豆に熱いお茶を注いでみましょう。『福茶』といってご利益があるとか。
そして、迎える春のとき。
ふと見れば… 大豆の皮がぼろぼろ零れてしまっていたら ぱぱっと払いましょう。
あらら、せっかく追い出した鬼さんがはいってきたかもしれませんね。
まあ 鬼さんとご一緒に豆まきなんてのもしてみましょうか。
わらべ歌のように「鬼さんこちら 手の鳴るほうへ……」
まだまだ 外は寒いねぇ……
― 了 ―