和ごよみ短編集
家庭を持ってから三十年ほど経った。僕も五十歳も半ばだ。
妻も半世紀を過ぎたが、あの頃と変わらず優しく気が利く。これは幸せなことだと心から思う。もちろん僕の周りも変わったと言えば変わったが 変わるのがあたりまえだろう。
仕事も転職を考えた時期もあったが、何とか続けてきて役職もつくようになった。
妻は 正社員から自宅近くの職場でパートに変わり楽しそうにしている。
健太も すっかり大人の男になったようで、この春、結婚が決まっている。しかも もうすでに半熟親父だ。
一番寒い大寒の日には雪が降る。あいつが舞い降りてくるようだ。
オレ様の好きだった人を幸せにしてるか? オレ様の宝物はどうしてる? と僕の首筋に冷たい息を吹きかけてくる。
いまだに妻にはあいつのことを何も訊かないが、あいつに面影が似てきた健太をずっと見ていようと思う。本当は、羨ましいほど人気者だったあいつといると 自分も太陽にあたっているようにあったかく感じていたんだ。
一番寒い日がくると思い出す僕と妻と息子の暖かな出来事。
少々汗ばんだ手と柔らかな手 そして 結ぶ小さな手を離さないようにしたい。
ひゅうひゅう 寒いねぇ……
― 了 ―