和ごよみ短編集
《其の33》『わかな』
「 せり なずな
ごぎょう はこべら ほとけのざ
すずな すずしろ
これぞ七草
はるのななくさ 」
冷たい風の声のように 野原に歌が通る。
その影を見たのはだぁれ?
「あ た し」
喉の奥から響くような 高い声で愛らしく笑う。
寒の入り。元旦からの松の内の行事を終える七日正月。
前日六日の昼間に野山、田畑に行き七種の草を摘んでいる時、この声を聞くと
七日の朝餉(あさげ)の七草粥の中に見たことのない草が現れ消える。
その粥を食した家人に 何かしら 不可思議なことが起きる。
そんな言い伝えがある村のお話。