和ごよみ短編集
一年中で昼間が一番短い日で 夜が最も長い日。それくらいのことは知っていました。
だからって一日の時間は変わらないじゃない。なんて屁理屈はでてきても、他国で暦の始まりだったとか 邪気を祓う言い伝えとか 彼女の話は面白い。なのに……
みんなの中にいる彼女がそんなことを話すところなど見たことが記憶にありませんでした。
「えっと何だっけ? あ、これ『一陽来復(いちようらいふく)』冬が去って春が来るっていう節目の日なんだって。これからもっと寒くならない?日射時間が長くなってくるってことだろうけど。あ、もうすぐクリスマスだね」
手元でスマホで検索しながら教えてくれた言葉を 私はもう何度も忘れて何度も思い出すように検索しています。
その夜は、彼女の部屋に泊まることなく帰宅しました。
彼からの連絡が届いた時に 彼女と一緒なのは照れくさいし なんだか彼女とは別の存在で考えたいと思いました。(もしも泊まっていったら このお風呂にはいっていたのかなぁ)と思いながら、帰りがけに置いてあった柚子に触れた香りが掌に残っていました。
卒業し、就職し、ひとり暮らしを始めるなど 私も生活の中に大なり小なり節目を迎え過ぎてきました。人と関わりや上下のいさかいに心の折れることもなくはないけれど、その都度、答えを見つけて進む節目を感じることができるようになりました。
あれから 彼女に会うことはあってもあの日のような食事をすることはありません。でも普段シャワー入浴の多い私が、この日だけは湯船に湯を張り、ひとつ柚子の実を浮かべ、身を清め、無事に冬を過ごし、暖かい春を迎えられるように願いながら浸かっています。
冬。
寒さを感じるこの頃になると 私は思い出すのです。
ほわほわと 優しい香りに包まれて……
― 了 ―