和ごよみ短編集
そんな中で、ある冬のことを思い出すのです。
私も彼女も高校を卒業し、それぞれに進路を見つけ進学しました。
その冬、私は、知り合ったばかりの男性とクリスマスを過ごす事ばかり気にして、おしゃれやプレゼントに生活の一部も含めた小遣いを注ぎ込んでしまって、お腹は空くし、その所為で苛立ちもあったのでしょう。彼女との連絡も取らず篭もっていました。
そんな時、彼女のメールが届きました。
『どうしてる?』
ひとりでいるのが辛くなってきた頃でもあり、断られることなどないだろうと『遊びに行っていい?』と返信をすると、案の定の成り行き、久し振りに彼女の部屋に行きました。
彼女のひとり暮らし生活を羨み、私は就職してから親に援助して貰ってやっとひとり暮らしを始めたほどでしたが、彼女のひとり暮らしは彼女の独立の節目だったことを知り凄いなと感じました。
遊びに行ったり、親と喧嘩して彼女の部屋に泊めてもらったりして、場所は既にわかっていました。呼び鈴を押すと、彼女の変わらない様子と鼻にいい匂いが私を迎えてくれました。
手土産にコンビニでプリンを二つ買ったのを手渡し お喋り… 私のする話を聞いてくれました。
中途半端な時間から始まった昼食とおやつと夕食は、彼女が用意したものでした。
「味はわからないけど、食べて」
私にとってはすぐにでもがっつきたいほどお腹の虫はよだれを垂らしていましたが、澄ました顔しかできない私はゆっくりとそれを食べ始めました。いつもと違った献立でした。
かぼちゃの煮物は口で溶けるほど柔らかく、人参のきんぴら。れんこんの肉のはさみ揚げ。大根の味噌汁。「お粥は苦手だから手軽にできる赤飯ね」「はい。貰った蜜柑」…… いつから料理を作り始めたのかと思うほどいろいろと出してくれました。
「こんなにどうしたの?」
「今日は冬至でしょ。ひとり分じゃ勿体ないけど来てくれるから作った」
「凄いじゃん」
「『ん』がつくものを食べると運がつく?って かもね。風邪ひかないとかで、よく作ってもらったの」
そうだ。彼女の変わった感じはこういったことも照れなくできちゃうことだ。
いつもなら 私の聞き役ばかりしてくれる彼女の話を聞いてあげよう。ううん、聞きたかった。うんちくでも雑学でもなく 得意にならずに語ってくれる優しい言葉に私は心を穏やかにしてもらっていたんだと思いました。