和ごよみ短編集
カリカリとノートに書くシャープペンの音や間違えては消して出る消しごむのかすが 邪魔をしていないかと気にかかったものの、公共の場なのだからと遠慮なく過ごしていました。
その彼女は、宿題をするわけでもなく、授業に関係しているとは思えない本を広げていました。少し手を止めて 私はお邪魔という気遣いもなく声をかけていました。
「その本、面白いの?」
「えっ… まあ…」
初対面であるうえに なんという愚問。
「何の本?」
「あ、これ」
彼女は、本を軽く閉じ、表紙を見せてくれました。私の知らない作者の本。でも彼女が見せてくれた本に興味が湧きました。そして、私は行動してしまったのです。また会えたらいいな……そんな気持ちが動いたのです。
「メールしていい?」
彼女の困った顔に はっと気付くまでわずかでした。
「ごめんね。また会えたら話がしたいなって思っちゃって」
私は、ノートを閉じカバンに詰め込み始めていると、彼女が『此処に書いていい?』とノートを指差し、書く真似をしてくれたのです。
それから交流が始まりました。
でも 二学期が始まると お互いの会う時間はほとんどなく、もうこのまま終わったかと思うほどの日が経っても届けるメールには返事が来るし、私がメールも面倒に感じる心持ちのときには そよ風のように和ませてくれる気がしました。
「どうしたの?」と直接訊かれなくても、彼女のしてくれる話がその時の心境にシンクロしていつのまにか緩やかに暖かくなっているのです。
不思議。気持ちの節目をまろやかにしてくれるような存在?
変わっているのは 本当は私のほうじゃないかと思ったこともあったけれど、やっぱり彼女のほうがその言葉が似合っていると私は微笑ましく思うのです。
それからも、図書館であったり、ショッピングに出かけたり、受験に向けて切磋琢磨。励まし合ったり、喜びあったりしてきました。
でも、彼女と違って私の計画性のなさは改善されず、いつも落ち着いている彼女が羨ましくも妬ましくもあり、冷たく接してしまったこともたびたびありました。