和ごよみ短編集
《其の30》『きもち』
街の色がかわった。
隠しきれない頬に冷たさを吹きつけていく。
いつもどおり…… 過ぎていく時間の途中。
目覚めた朝。今日はどんな日なのか。
空から見下ろす街はまだ静か。
息つくものの姿はまばら。
時間(とき)は速度を変えない。
空を見上げると 青い空に雲が漂う。
その姿はすぐに散りぢりに空にとけていく秋のそれとは違う。
寒さに身を寄せるようにかたまり、陰気なふうにも見える。
積もる。もっと もっと 陰気が積もる。
やがて 見違えるほど真っ白な姿に身を変えて舞い降りる。
それを見るものの気持ちを変える。
雪。
一層はなはだしく陰気を積もらせ、舞い降りる雪は積もる。積もる。
大雪。
もっと降り積もる。色を覆い隠すように積もる。音を隠すように積もる。
雪の暮らす町。
寒さに凍える手をしまい込んでいたところから出して それを受ける。
冷たさなど忘れたかのようにすぐに消えるそれを愛おしむ。
雪のいない街。
陽射しの中を 乾いた冷たい風が吹き抜けていく。
襟を立て 温もりを守り 肩をすぼめ行き交う。
陽の暖かさを待ちながら見上げる空に何を見ていますか…
息つくものが目覚める。
賑やかに 慌ただしく 気忙しく。
変わらぬ時間(とき)の中で速度をあげて活きる。
気持ちが溢れる街。
感謝 感激 雨あられ… 幾歳過ぎれば辛いことも陽気に変わる。
想い 想われ 振り返れば 優しかった思い出が微笑む。
気持ちを形に変える。贈る喜び、貰う嬉しさ こころを添えて結ぶ。
気持ち静まる町。
水面は動きを止め、安らいだときを過ごす。静かに短い物語を語りかける。
地にもぐり土を盛り上げる力強き霜柱のことをたたえる。
新しきものを育むために 自らが傷ついても群れ成す雄姿を抱く流れ。
疲れを癒し、ただただ眠りにつき 守っていくものと過ごす空間。
真っ赤な実をたわわに実らせ緑色の葉とともに目にも美しく 音にすれば難を転ずるという木に気持ちを寄せる。
異国の文化を 幾多の電飾で彩り華やいで交わす笑顔と贈り物に気持ちを躍らせる。
厳かに歳を締めくくる日を迎えるために せわしく忙しく気持ちばかり逸る。
寒さがひとしお身にしみる頃。
いろいろな気持ちの交叉の熱を そっと沈めてくれているのかもしれない。
年の終わりと思えば 暮古月(くれこづき)
ゆったり暖かな春が来るのを待つ 春待月(はるまちづき)
どれもが 息つくものの大切な気持ちとともにある。
大切なひと たいせつなもの たいせつな…
大雪。
住む街にやがて訪れる冬の使者と楽しく過ごせるような気がして……。
やややり過ぎな冬将軍となるか それとも心に残る冬化粧の舞姫になるか
わからないけれど 此処にいる。
こんこんと 心の扉を開いて……
― 了 ―